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導入

オーストラリアは、連邦制の政府構造を有し、コモン・ローの法体系を採用しています。会社の設立、ガバナンスおよび倒産は、2001年会社法により連邦レベルで規制されています。また、会社の監督機関として、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)が設置されており、連邦および州・準州の裁判所は、会社法に関する管轄権を共有しています。

オーストラリアの不動産や動産に関する権利も制定法により規律されており、不動産は各州法で、動産は2009年動産担保法(連邦法)により規制を受けます。

オーストラリアは高度に規制された会社・金融システムを有していることから、オーストラリアで会社の事業再編および倒産処理を行う場合には、通常、法律および会計に関する専門家の支援が必要になります。

オーストラリアにおける倒産の意義

オーストラリアでは、会社が弁済期にある債務を全て弁済することができない場合、当該会社は倒産状態にある(insolvent)とみなされます。これは第一義的にはキャッシュフローテストにより判断されますが、当該会社の貸借対照表も考慮される場合があります。オーストラリア法は、倒産状態にある会社と取引を行う債権者および第三者を保護することを目指しています。

倒産状態にある会社を経営する取締役および役員は、オーストラリア法上、民事および刑事上の責任を負う可能性があります。このうち、より一般的なものは民事上の責任であり、会社が倒産状態にある時期に行った取引により債務を負った場合、当該債務について取締役が会社に対して金銭的に補償する義務を負うこと(この時点までに会社は清算状態となっています)がその典型です。もっとも、倒産取引法が近時改正され、「セーフ・ハーバー」に該当する場合には取締役は個人責任を負わないこととされました。

オーストラリア法のもとでは、倒産状態にある会社は、債権者の保護および債権者の利益の最大化という観点から設けられた複数の外部管理の手法のうちのいずれかに服している場合があります。

オーストラリアにおける事業再編

英国および米国で利用されている最先端かつ国際的な事業再編手法の多くは、オーストラリア法の下でもほぼ同様の形式で利用することができます。

オーストラリアには、組織再編成の提案と承認が行われるアメリカの連邦倒産法第11章(Chapter 11)に相当する規定は存在しませんが、米国の制度によるメリットの多くはオーストラリアの制度下でも実現することが可能です(債権者の強制執行一時停止や優先貸付債権を含む)。

事業再編は、外部管理を利用する場合と利用しない場合の両方があります。再編計画の実行に外部管理が必要となるか否かは、会社の支払能力、および一定の外部管理手続において行使できる法的な保護および権利を利用したいかどうかによります。このような法的な保護および権利の例には、債権者の強制執行を一時停止すること、債権者の債権を消滅させること、取締役の権限を停止して外部管理人に権限を付与することなどがあります。

会社は、再編計画を支援、管理または実行するためにchief restructuring officerまたはturnaround managerを選任することもあります。また、会社は、外部の法律・会計アドバイザーを選任して、再編計画の準備および実行についてアドバイスを受けるのが一般的です。

外部管理

オーストラリアで最も一般的な外部管理の形式としては、以下のものがあります。

  • レシーバーシップ(receivership)
  • 任意管理(voluntary administration)
  • 会社調整契約(deed of company arrangement)
  • 清算(liquidation)

これらの外部管理のいずれについても、会社またはその財産について任命される外部管理人は、独立した第三者であり、通常は、公的な認証を受けた倒産専門の会計士です。

外部管理人の報酬、費用および経費は、先取特権(lien)で保護され、会社の資産に対する第一順位の優先債権となります。

会社が外部管理下にある場合、ASICが管理する会社登録情報に当該会社が外部管理下にある旨が記録されます。さらに、会社は、当該会社が行うあらゆるコミュニケーションにおいて、会社名の後に自社が外部管理下にある旨を明示することが会社法上要求されています。

レシーバーシップは、外部管理の一種であり、会社財産の全部または一部を管理するために、担保権者または裁判所が、レシーバーまたはレシーバー兼マネージャー(コントローラーと呼ぶこともあります)を選任する手続です。

上記の選任は、担保権者が担保契約(会社が担保権者のために締結する担保契約)に定める契約上の権利に基づいて行われるのが、最も一般的です。裁判所が適切と考える場合(例えば、担保契約にレシーバーを選任する権利に関する規定が含まれていない場合)には、裁判所がレシーバーを選任することもできますが、あまり一般的ではありません。

レシーバーの役割は、担保の目的物である会社財産の占有および売却を行い、売却代金を担保権者への支払いに充てることにあります。レシーバーは、市場価格または当該状況下における最高の価格で財産を売却するようにあらゆる相当な注意を払うことが法律上求められています。

取締役の権限は、レシーバーシップの手続中は制限されます。レシーバーは、取締役の介入なく、担保の目的物である財産を処理するあらゆる権限を有しています。レシーバーの選任を行った担保権者の債務が全て弁済された場合、担保資産の全てが換価された場合、または裁判所の命令があった場合には、レシーバーシップは終了します。

任意管理は外部管理の一種です。任意管理手続では、資格を有する倒産専門の会計士が管財人に選任され、当該管財人が会社の財務状況の調査を行うこと、そして会社の債権者に対して報告を行うことを目的として、会社の管理を行います。

管財人による調査、債権者への報告および債権者集会の招集・開催については法定の期限があり、これらの手続全体には、裁判所の期限延長の命令がなされない限り、通常は25日から30日程度かかります(複雑な会社構成になっている場合には期限延長の命令がなされるのが一般的です)。

任意管理手続を円滑に実行できるように、管財人は、取締役の全ての権限を有し(この間は取締役の権限は停止されます)、また、債権者または第三者が管財人の同意または裁判所の許可を得ずに会社またはその資産に対して処分を行うことを防止する法定のモラトリアムを利用することができます。

管財人は、最終的に会社の将来の方向性について債権者に提案を行い、債権者に当該提案の採決をさせる必要があります。会社の将来の方向性の提案は、以下の3つのいずれかになります。

  • 会社の経営権を取締役に戻す。
  • 会社調整契約を締結する(後述)。
  • 会社を清算する(後述)。

会社の財産の全体(またはほぼ全体)に対する担保権に基づき、担保権者は、任意管理手続の開始から13営業日以内であれば、会社の財産に対してレシーバーまたはコントローラーを選任することができます。当該選任がなされた場合、当該財産に対するレシーバーの権限は、管財人の権限に優越することになります。

会社調整契約(deed of company arrangement(DOCA))は、外部管理の一種であり、DOCAの下で、管財人は、会社とその債権者との間の契約上の和解合意を履行します。上記のとおり、DOCAは任意管理のあり得る帰結の一つです。

管財人は、任意管理手続において、第二回債権者集会の招集に先立ち、当該集会において採決に付されるDOCAの案の提案を募ります。通常、DOCAの案が可決されるためには、債権者に対し、清算による場合よりもDOCAによる場合の方が弁済額が多くなることを示す必要があります。

通常、DOCAの目的は、会社の財産または第三者(多くの場合、取締役またはその関係者など)から資金を捻出して、認められた債権者に対してその債権に関する完全かつ最終的な分配金を支払うことにあります(これにより債権は消滅する)。その後、会社は債務がない状態で既存のまたは新たな取締役の管理下に戻されます。

DOCAについて標準的な内容はありません。会社法は、大半の事業再編の状況に合わせて調整できるようにDOCAの内容を柔軟に定めることができるようにしています。例えば、資産の売却・譲渡、株式発行、債務に関する和解、清算手続における法定の優先順位と異なる優先弁済に合意することなどを定めることもできます。

清算(liquidation)は、清算人に任命された倒産専門の会計士が会社の業務を終了させ、その財産を換価し、換価代金を会社法に定める優先弁済順位に従って債権者に対して分配し、最終的には会社の登録抹消を行うことを内容とする手続です。

会社の清算には3通りの方法、すなわち、株主による清算、債権者による清算、および裁判所による清算があります。清算は、会社が支払不能状態である場合に行われるのが最も一般的です。清算手続期間中、清算人が会社を管理し、取締役および役員の権限は失われます。

認められた債権者に対する分配を行うための資金を捻出するために、清算人は、裁判所に対して以下の命令を求めることができます。

  • 会社が倒産状態にある時期に取締役が会社を運営した場合、取締役に会社に対する金銭的な補償を行わせること。
  • 「不公平な優遇」、「非商業的取引」、「会社に対する不公平な貸付」および「取締役に関連する不公正な取引」などの会社が行った一定の取引(破棄できる取引:voidable transaction)について破棄を宣言すること。

清算人は、債権を有すると主張する者に対して債権の証明を要求します。清算人は、提出された証拠を吟味した上で、証拠の提出者が債権者であるといえるか否か正式に判断を行います。その上で、債権者に会社法に基づいて優先的な弁済が認められるか否か、およびそれらの者に認められる債権の総額について判断します。債権者の全ての債権が全額弁済されない限り、株主に対する配当はなされません。

担保権者は、清算手続期間中、会社の財産についてレシーバーまたはコントローラーを選任することができ、当該財産に関するレシーバーの権限は、清算人の権限に優越します。

近時の倒産法改正

セーフ・ハーバー

しばしば、取締役は健全な状態の会社について早期に管財人を任命します。これは潜在的な倒産取引(insolvent trading)に伴う責任と会社が支払不能状態にあるか否かが不明確であることが原因です。近時の会社法改正によるセーフ・ハーバーの導入は、取締役が会社経営権を保持し続け、会社の再建のためのステップを段階的に講じることを促進することを目的としています。

セーフ・ハーバー充足による適用除外規定を活用するには、取締役は、債務を負担した時点で、会社が支払不能である、または、支払不能になるかもしれないと疑いを抱いた場合、直ちに任意管理や清算に進むよりも会社にとって良い結果を合理的にもたらすであろう措置を採らなければなりません。また、取締役は、会社の財務記録が十分保持され、従業員への支払いと税金の支払いを滞りなく行わなければなりません。

会社法には、取締役が採用した措置が会社にとってより良い結果を合理的にもたらすか否かについて判断する要素の例が規定されています。かかる要素として挙げられているものには、再建計画を作成するための適切な措置を採ること、会社の財務状況について十分に理解していること、事業再生の専門家を含む適切な専門家からアドバイスを得たことなどがあります。

倒産解除(Ipso facto)

契約における倒産解除条項(Ipso facto clause)は、契約の一方当事者が、所定の事由、たとえば相手方当事者の支払不能を理由として、契約の解除権その他の権利を行使することを認める条項です。かかる条項は、相手方当事者が(所定の事由に該当しているという点を除いては)デフォルト状態になく、契約上の義務を履行することが可能であるにもかかわらず、契約の解除その他の権利行使を認めるものです。このような状況下で契約の解除(またはその他の権利行使)が認められると、財務的に逼迫した会社の再建能力や事業をゴーイング・コンサーンとして売却することに対して悪影響が生じかねません。

現在、2018年7月1日以降に締結された契約の当事者は、相手方当事者のために任意管理の管財人や会社財産のコントローラーが選任された場合、または相手方当事者が調整スキーム(支払不能状態での清算を避けるためのもの)を実施した場合に、相手方当事者に対して権利行使することを禁じられました。上記のうちいずれかの手続が開始された場合、この「倒産解除の停止」(ipso facto stay)は、契約当事者が以下に掲げる理由で権利行使した場合にも適用されます。

  • 権利行使が会社の財務状況に関連する場合
  • 規則に定められた理由による場合
  • 実質的に会社法が定める倒産解除停止の趣旨に反する場合

ただし、改正後の会社法規則では、倒産解除の停止ルールが適用されない契約と権利類型が数多く規定されています。このような契約として、一定の負債資本市場における契約や政府から付与されたライセンスや許認可が挙げられます。

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