特許
1990年特許法(連邦法)は、2種類の形態の特許を規定しています。
- 標準特許(standard patents)は、完全明細書の提出日から最長20年間有効です(ただし、更新料が支払われている場合に限ります)。
- 革新特許(innovation patents)は、産業分野に多大な貢献をもたらす技術の進歩を保護するもので、有効期間は8年間です。
特許の有効期間の延長は、認められません。ただし、医薬品の標準特許についてのみ例外が認められています。
革新特許についてはこれを廃止する提案がなされており、2018年後半か2019年のはじめに法案が審議される予定です。
標準特許については、特許出願後、特許登録前に完全な審査が行われます。他方、革新特許の場合、特許登録前には方式要件を遵守しているかのみが審査されるため、より早期かつ安価に特許登録可能です。もっとも、革新特許の侵害者に対し、特許権の主張をするためには、実体的審査および認証が必要です。革新特許の実体的審査は、特許権者または第三者(特許の有効性や侵害の成否について利害関係を有する者)の請求(いつでも請求可。有料)または特許局長官の職権により開始されます。
また特許法は、異議申し立て(特許登録前に申請に反対するか、特許庁長官に再審査を求める)の手続を定めています。異議申し立ては、書証の提出と、決定権を有する特許局長官の手続代行者の面前での口頭審理が行われる場合があります。特許の適格性または異議申し立てに対する特許局長官の決定については、オーストラリア連邦裁判所に上訴することができます。
標準特許も革新特許も、連邦裁判所において有効性を争うことが可能です。特許無効の根拠としては、適切な発明主題の欠如、新規性の欠如、発明性(革新特許の場合は革新性)の欠如、有用性の欠如、その他の技術的根拠があります。特許の有効性を争う手続は、特許権者自らが、製品の発売のために疑義をなくしておくために行うこともできますし、特許権を侵害しているとされる者が侵害の主張に対する防御として利用することもできます。
オーストラリアは、パリ条約の加盟国です。海外の出願者は、パリ条約に基づき、自己が同条約加盟国において行った正規の特許出願をオーストラリアで行う場合は、当該加盟国での最初の出願日から一定期間の優先権を有します。また、オーストラリアは特許協力条約の加盟国でもあり、ある加盟国で特許を出願した場合は、他の加盟国でも同様に出願したもの
として扱われることができます。
意匠
2003年意匠法(連邦法)が、意匠の登録制度を定めています。
意匠とは「一つまたは複数の視覚的特徴から作り出される製品の全体的外観」をいい、オーストラリアで公に使われているものか、オーストラリア内外で公表されているものと比べて、「新規性(new)」と「識別性
(distinctive)」を有するものであれば、登録が可能です。
意匠権は、革新特許と同様に、出願時には実体的審査は行われず、単に形式要件が満たされていれば登録されます。登録意匠については、当事者または第三者の請求、裁判所の命令、または登録官の指示があった場合にのみ、実体的審査が行われます。革新特許と同様、意匠権の侵害者に対し、意匠権の主張をするためには、登録された意匠がIP Australiaによる実体的審査および認証を受けていることが必要です。
登録によって生じる意匠権の有効期間は、最長10年間(当初の5年の有効期間と更新による5年間の延長)です。オーストラリアは、パリ条約の加盟国であるため、外国の出願者が同条約加盟国において出願した意匠と同一の意匠の出願をオーストラリアで行う場合は、当該加盟国での最初の出願日から6か月間、オーストラリアにおける出願について優先権が付与される取扱いになっています。
オーストラリアはハーグ協定に加盟していません。IP Australiaは近い将来ハーグ協定に加盟すべきかについて利害関係者と協議しています。加盟する場合、意匠権の有効期間を15年間に延長する必要があります。
意匠作成者による事前開示の猶予期間の導入を含め、意匠法の大きな改正が提案されています。本改正のための協議が2018年後半か2019年はじめに実施される予定です。
商標
オーストラリアにおける商標の登録については、1995年商標法(連邦法)が定めています。
同法に基づき、特定の商品/役務について、これまで当該商標がオーストラリアで使用された(またはライセンスされた)ことがあるかどうかにかかわらず、商標登録の出願を行うことができます。ただし、少なくともその商品/役務にその商標を使用するか、使用を許諾する意図が出願者になければいけません。
オーストラリアの法律は、パリ条約に従い、外国で出願されたものと同一の商品/役務に関する同一の商標をオーストラリアで出願する際の一定の優先期間を定めており、これにより当該加盟国での最初の出願日がオーストラリアの出願日と取り扱われます。また、オーストラリアは、マドリッド協定議定書にも加盟しており、加盟国であるいずれかの国で、一度国際登録出願をすれば、その出願で指定した他の加盟国においても商標が保護されるための手続が進められることになります。
オーストラリアは、ニース国際分類に従って、商品および役務を分類しています。商標権の有効期間は10年間で、その後、10年ごとに更新が可能です。商標登録は、指定商品/役務に関して商標が3年間連続でオーストラリアで使用されなかった場合、不使用を理由に取り消される可能性があります。
登録商標の保護の要件として、商標ライセンスの登録は義務付けられていません。ただし、商標ライセンス契約のライセンシーによる商標の使用が商標権者による使用であるとされるためには、商標ライセンスが一定の基準を満たしていなければなりません。これには、ライセンシーによる商標の使用に対して登録商標権者が合理的なコントロールを行使する権利を有していることという要件が含まれています。
制定法上の登録商標の保護とは別に、オーストラリアの一般法は、(例えば同一または類似の商標を使用することによって)自己の商品または役務を競業者の商品または役務であるかのように見せかける行為(passing off)を禁じています。
著作権
オーストラリアにおける著作権については、1968年著作権法(連邦法)が定めています。著作権は、通常の著作物の場合、著者の死後70年間存続し、それ以外の場合には、(多くの場合)公表日から70年間存続します。
著作権の対象となるものの種類は次のとおりです。
- 言語著作物(コンピュータープログラムを含む)
- 音楽著作物(作曲された音楽作品)
- 美術著作物(写真、製図、図面、建物、美術工芸品など。高度な美術的要素が含まれているかどうかを問いません)
- 演劇著作物
- 映画フィルム、録音物、テレビ放送・音声放送、出版物
著作権発生の要件が満たされた場合、著作権はその創作の時点で自動的に発生し、登録、通知その他形式的要件は不要です。実際、オーストラリアには、著作権の登録のための制度は存在しません。著作権発生の要件は、オーストラリアやオーストラリアが二国間/多国間条約を締結している諸外国の国民・居住者が著作物の創作を行ったこと、またはオーストラリアやオーストラリアが二国間/多国間条約を締結している諸外国において著作物が最初に発表されたことなどです。
オーストラリアは、ベルヌ条約および万国著作権条約の批准国であり、これ以外にも著作権者の権利保護に関する条約を批准しています。
機密情報
オーストラリア法上、情報について財産権は成立しません。この点は、一部の国の法制度と異なる点です。ただし、一定の状況では真に機密性のある情報を秘密に保持させるための権利が生じます。
オーストラリアにおいては、機密情報(営業秘密を含む)の保護は、制定法ではなく一般法によります。オーストラリアには、米国の多くの州で採用されている統一法典のような成文法はありません。
一般法は、情報の受領者が、当該情報が機密情報であるということを知っていたか、または知ってしかるべきであったような状況において、守秘義務を課します。
この守秘義務は、情報受領者が情報開示者の指示に反して機密情報を開示することを禁じるだけでなく、情報開示者が許諾しない限り、たとえそれが秘密裏に使用される場合であっても、当該情報を使用することをも禁じています。また、当該情報が実は機密情報であることを情報受領者が知らなかったとしても、情報受領者は、当該情報の使用/開示について制限を受ける場合があります。
法は、特定の情報につき、真にその秘密が保持されていた場合か、または秘密保持義務を負うべき者に対してのみ開示されていた場合に、かかる情報を保護します。
秘密保持義務は、法の作用だけで生じるものなので、契約を結んだり文書化したりする必要性は必ずしもありませんが、秘密保持義務について通知し書面で確認しておくことは、秘密保持の必要性が情報受領者に伝達されたことを立証するのに役立ちます。他方、情報受領者が情報開示者に何らかの義務を課したい場合(例えば、独占使用権を確保したい場合や他の第三者への非開示を取り付けたい場合)は、その旨の契約を締結することが必要になります。このような契約は、取引制限を定める種類の契約となりますので、この種の契約に関する法律の規制を受けることになります。
育成者権
1994年育成者権法(連邦法)は、新規の種苗の登録について定めています。
育成者権(PBR)は、登録された種苗についてオーストラリアで生産、複製、輸出、輸入、および繁殖材料の販売を行う独占的権利を、登録権利者に付与します。
産物が育成者権者の同意をもって販売されると、販売に関する権利は失効しますが、それ以降の繁殖には育成者権者の同意が必要です。
PBRの対象である各種苗は、関連する属に属する植物についてその種苗の農産物の市販のみに使用することができる、特定の名称をもって識別されます。
PBRは、出願日から20年間有効です(樹木またはツル植物の場合は25年間)。
回路配置とマスクワーク
回路配置の保護は、1989年回路配置法(連邦法)に定められています。
オーストラリアは、集積回路についての知的財産に関するワシントン条約の加盟国であり、同条約の施行をにらんで同法を制定しました。米国の半導体チップ保護法と異なり、同法の保護対象にはマスクワーク(mask work)は含まれていませんが、回路配置は保護の対象となっており、回路配置とは集積回路を構成するものに固定された能動素子と受動素子およびそれらの配線の3次元上の位置の表現と定義されています。
同法で認められる回路配置権は、以下のいずれかの時点から10年間有効です:
- 商業的使用を伴う場合、初回の商業的使用日。
- 商業的使用がない場合、回路配置が作成された年。
登録の必要はなく、登録機関もありませんが、オーストラリア法は、回路配置や集積回路のマーキングの規定を有している点で珍しい立法となっています。