土地の権利
オーストラリアの土地の権利には以下に記載するものが含まれます。
- 法的または衡平法上の土地の権利(一定の状況を除く)
- オーストラリアの土地を所有する事業体の証券への権利
- 賃借人またはライセンシーとしての権利
- 土地の権利を発生させる契約上の権利
- オーストラリア土地法人または農業用地法人の証券への権利
- オーストラリア土地信託または農業用地信託の受託者として活動する法人の持分
なお、土地の権利には、5年未満の賃借権または立入権(licence)は含まれません。
重要な行為
重要な行為には、2015年外資買収法規則(連邦法)(Regulations)により設定されている基準額を超える、オーストラリアの土地の権利の取得が含まれます。ここでいう取得には、発効の前提条件があるものを含め、契約またはオプションの締結も含まれます。
通知義務行為
1975年外資買収法(連邦法)(FATA)は、一定のオーストラリアの土地の権利の取得を試みる外国人に財務大臣への通知義務を課しています。重要な行為のうち所定のもののみが通知義務行為に該当します。通知義務行為に該当するか否か判断する方法の一つは、対象行為が所定の金額基準を超えるかというものです。本稿の外国投資に関するチャプターで、金額基準とFIRB申請の手数料について取り扱っています。
財務大臣の権限
通知義務行為は、財務大臣の承認がなければ進めることはできません。Regulationsが財務大臣による決定期間を定めています。
現在、財務大臣が通知を検討して決定を下すまでの期間は30日間ですが、この期間は変更されることがあります。適用される決定期間は、申請時点で最新の期間になります。財務大臣は決定期間を90日を上限として延長することができ、また、申請者も書面で同じ期間だけ決定期間の延長を求めることが可能です。
財務大臣は、通知義務行為について財務大臣の承認を得なかった場合、または承認に付された条件への違反があった場合、取得された土地を処分する命令を下すことができます。
適用除外
Regulationsは、重要な行為または通知義務行為について、下記を含む一定の適用除外を設けています。不動産に関する権利の取得については複数の適用除外があります。例えば、外国人は、以下の場合には財務大臣への通知を行う必要がありません。
- 新築の住居の取得について、その住居を販売する開発業者に事前に適用除外証明が付与されている場合
- オーストラリア政府機関からの土地の権利の取得(取得者が外国政府投資家である場合、重要インフラ資産の取得を伴う場合を除く)
- 遺言、法律の定めによる権限委譲(devolution)による土地の権利の取得
適用除外に該当する行為は定期的に更新されるので、適用除外に該当するかどうかはケースバイケースで検討する必要があります。
刑事罰と民事上の制裁
外国人がFATAに違反した場合には、刑事および民事の両方の制裁の対象となります。違反には、財務大臣への通知義務に違反した場合と承認の条件を遵守しなかった場合が含まれます。刑事罰には、個人の場合には罰金と最長3年間の懲役刑が、会社の場合には罰金があります。財務大臣は民事制裁手続を開始することもできます。
これらの制裁は、会社役員、弁護士、会計士、不動産エージェントなどの第三者にも及ぶ場合があります。制裁金の支払いを怠った場合にはその土地に抵当権が設定され、未払いの金額を支払わない限り抵当権は解除されません。
先住権(Native title)および文化遺産
1992年以降、オーストラリアの裁判所は、先住権、すなわち、オーストラリア先住民の法律や慣習で認められた土地および水域に対する権利が、ヨーロッパ人の入植後も存続してきた可能性があることを認めるようになりました。
裁判所は、以下の行為により先住権が消滅した場合を除いて、先住権は存続するという判断を下すようになりました。
- 先住権の存続と相反する政府の行為。たとえば、以下の行為:
- 自由所有権の付与
- 排他的占有権のある借地権の新設
- 政府によりまたは政府のために実施された公共事業による特定の建物や道路の建設
- 土地とアボリジニーまたはトレス諸島民のグループや氏族とのつながりの喪失。
つまり、先住権は、州の保護区、公園、森林、海岸地帯、その他の政府所有地をはじめとする、オーストラリア大陸の広い地域および各州や準州の境界内または境界を越える水域にわたって存続している可能性があることになります。
1993年連邦先住権法(連邦法)(NTA)は、このようなコモン・ロー上の発展を確認・成文化したもので、先住権を認め、保護する枠組みを定めています。NTAでは、アボリジニーおよびトレス諸島民が、先住権の消滅していない土地および水域に関する先住権を主張する仕組みを設けており、その主張は連邦裁判所によって判断される仕組みになっています。
オーストラリアでプロジェクト開発を行う場合、プロジェクトのために政府から付与される所有権や許可の有効性について疑義がないことを確認することが非常に重要です。
NTAの下では、1994年1月1日以降の、自由所有権や借地権の付与、政府所有地の法定使用権の付与といった、先住権を消滅させる政府の行為(または先住権の継続的な存在または行使と矛盾する行為)は、それが先住権に影響を与える限りにおいて無効となります。ただし、当該行為がNTAが規定する例外に該当する場合(かつNTAの規定に従って行われる場合)は、この限りではありません。このような政府の行為は、「将来の行為(future acts)」として知られています。
オーストラリアで事業を行う者は、自身のプロジェクトや取引を実行するために将来の行為がどの程度必要か検討する必要があります。将来の行為がNTAに定められている場合には、NTAに遵守すべき所定の手続が定められている場合があります。かかる手続は、典型的には、政府が、登録先住権者や先住権を主張する者として登録されている者に対して政府の行為について通知した上で、意見陳述の機会を与えるというものです。場合によって(特に鉱業権を付与する場合には)、政府の行為について関連する先住権当事者から同意を取得すべく交渉する必要があります。このような有効化の手続は、一定の種類の公共インフラストラクチャーの建設または運営の許可を含む、多様な将来の行為について規定されています。
1998年以降、NTAは、(前述の手続によらない)代替的な手続による政府の行為を認めています。これは、企業や開発事業者の多くが利便性を認め利用しているもので、プロジェクト開発の早い段階で、プロジェクト対象地の先住権者や先住権者である可能性がある人々(例えば、先住権を主張する者として登録されている者)との間で先住地使用合意(Indigenous Land Use Agreement - ILUA)を締結し、登録するというものです。ILUAが登録された場合、将来の行為は、当事者が同意したものであるとしてILUAに記載されている限り有効になります。
ILUAで通常規定されるのは、神聖視される場所や重要な場所の保護、アボリジニーのグループ・氏族に関する重要な文化情報の交換、プロジェクト開発者によるグループ・氏族のメンバーの雇用、プロジェクト開発が先住権に及ぼす影響に対する補償金の支払いなどです。
先住権を認めるようになったのは、オーストラリアの不動産法における比較的最近の動きであり、僻地での鉱業やインフラ開発において課題となる可能性があります。
ただ、通常、先住権の存在を主張する者との交渉を早期に開始すれば、先住権がプロジェクト成功の妨げになるほど大きな障害となることはありません。
文化遺産管理計画
連邦政府および各州・準州政府は、アボリジニーおよびトレス諸島民の文化遺産保護法も制定しています。
大規模プロジェクトの場合、原則として、関係するアボリジニー当事者およびトレス諸島民らと文化遺産管理計画(Cultural Heritage Management Plan)について交渉しなくてはなりません(該当する問題について規定した登録済みのILUAがある場合を除きます)。
このような交渉も、プロジェクト開発の初期の段階で開始し、先住権問題の交渉と同時期に並行して行うことが重要です。
不動産のデュー・ディリジェンス
デュー・ディリジェンスは、当事者または不動産に関する情報、記録、書類を調査し、検証するプロセスです。投資家が当該不動産の購入に関するリスクを十分に知ることができる点で、デュー・ディリジェンスは重要です。また、デュー・ディリジェンスにより、投資家は、不動産の価格についても十分に情報を集めた上で決定することができます。
一般的な不動産のデュー・ディリジェンスの対象には、不動産の所有権の調査、不動産の賃借権の精査、開発証明の精査、不動産の使用と将来の再開発の可能性に影響を与える開発条件・規制の精査が含まれます。
デュー・ディリジェンスを行うにあたり、以下の点を意識しておくとよいでしょう。
- 早く始める – 多くの場合、資料が手に入り次第、デュー・ディリジェンスをできるだけ早く行うことが有益です。このことは、売主が取引の次のステージに進む準備ができている買主を求めている場合に、買主にタイミングの面で有利に作用します。
- 専門のコンサルタントを利用する – 経験豊富なコンサルタント(弁護士、エンジニア、環境コンサルタントなど)は、投資家に対して、不動産に関する最も包括的な分析を提供します。
- 第三者の依拠についての許可を求める – 買主が、売主のコンサルタントが準備したレポートに依拠したい場合には、買主は通常そのコンサルタントから許可を得る必要があります。場合によっては、コンサルタントに対してそのための費用を支払う必要があることもあります。
- 保険をつける – 投資家は購入しようとする不動産のために十分な保険をかけることが重要です。