banner image

導入

オーストラリアでは製造物責任訴訟の数が増加しています。これは、国民全体の消費者権利意識の向上、消費者監視団体の積極的な活動、そして消費者側の原告弁護士や製品の安全性に関する主要な規制当局であるオーストラリア競争・消費者委員会 (ACCC)の積極的な活動の結果ともいえます。また、この流れは、医薬品、食品汚染、医療機器、自動車、ホームウェアに関する、注目を集めた製品安全性関連の訴訟によっても促進されてきました。

オーストラリアは、集団訴訟のための環境が整った国であり、この種の訴訟は活発さを増しています

製造物責任訴訟の提起方法

オーストラリアの製造物責任訴訟は、通常は、連邦裁判所、または州もしくは準州の最高裁判所もしくは地方/郡裁判所で提起されます。重要な訴訟のほとんどは、各州の州都にある裁判所で提起されるのが通常です。シドニー、メルボルン、ブリスベン、そしてパースは、複数原告による製造物責任訴訟が提起される中心的な都市です。

オーストラリアの裁判制度は、当事者主義的な制度になっています。オーストラリアの法制は、英国の法律制度に由来しています。その結果、オーストラリアと米国とでは、訴訟手続について、以下のような複数の根本的な違いがあります。

  • オーストラリアでは、正式審理前の供述録取(depositions before trial)の手続はなく、書証の証拠開示の手続(係争中の争点の判断に必要な証拠書類の提出)に重点がより置かれています。
  • 民事訴訟において、州や準州の裁判所は陪審による裁判のルールを設定していますが、ビクトリア州を除くほとんどの法域では陪審による裁判が採用されるのは稀です。連邦裁判所には、陪審による裁判はありません。
  • オーストラリアでは、勝訴当事者は、敗訴当事者から弁護士費用その他の費用を含む訴訟費用の一部を回収することができるのが通常です。

集団訴訟

オーストラリアは、集団訴訟(class action)のための環境が整った国であり、この種の訴訟は活発さを増しています。米国と比べても、オーストラリアの法制は、いくつかの点で原告に有利なものとなっています。

連邦裁判所の集団訴訟手続においては、以下の両方の要件に該当する、同一被告に対する訴えについて原告適格を有する7人以上の集団を代表し、一人または複数の原告が訴訟を提起することができます。

  • 請求原因が同一、類似、または関連した状況で生じたこと
  • 法律または事実の点で実質的に共通の争点があること

このような方法で開始される訴訟は、「代表訴訟(representative proceeding)」と呼ばれます。

製造物責任訴訟において集団訴訟を利用すると、特定の欠陥商品を使用して損害を蒙ったと主張する人々が、すべての関連当事者を代表する形で、製造者に対して訴訟を提起し、一回の訴訟で事件を処理することが可能になります。

米国とは対照的に、オーストラリアにおいては、代表訴訟を追行するために裁判所の許可を得る必要はありません。むしろ、当該訴訟を代表訴訟として追行することは許さないとの命令を裁判所に求める被告側が、当該訴訟が代表訴訟の要件を満たしていないこと、または代表訴訟の手続が適切ではないことを立証しなくてはなりません。かかる命令を得るのは容易ではありません。

1992年にオーストラリア連邦裁判所に集団訴訟制度が導入されて以来、500を超える集団訴訟が提起されてきました。ビクトリア州最高裁判所では2000年に、ニューサウスウェールズ州最高裁判所では2011年に、クイーンズランド州最高裁判所では2016年に集団訴訟制度が導入されています。

製造物責任の文脈では、集団訴訟は、金融商品・役務、医薬品、医療機器、自動車、各種の消費者製品など、製造物責任などに関連して提起されています。

訴訟資金援助

第三者による訴訟資金援助は、それがなければ訴訟を利用できない原告に対し、訴訟を利用する機会を与えます。オーストラリアでは、かつては訴訟に関する資金援助は「手続の濫用」とされてきましたが、現在では訴訟へのアクセス手段の1つであると考えられるようになりました(この考え方は、オーストラリア連邦最高裁判所も支持しています(Campbells Cash and Carry Pty Limited v Fostif Pty Limited (2006) 229 CLR 386))。

IMF Bentham Ltdは、オーストラリア最大の訴訟資金援助者であり、この種の会社としてオーストラリア証券取引所に最初に上場された会社でもあります。現在のオーストラリアには、訴訟資金援助者により構成される、成熟した市場があります。それらの訴訟資金援助者の中には、集団訴訟活動に日常的に従事する上場公開会社もあります。従来、オーストラリアの訴訟資金援助者が重点的に扱っていたのは、金融サービス部門の集団訴訟と株主の集団訴訟でした。しかし、現在では訟資金援助者はより多岐にわたる事案に関与するようになっています。

近時訴訟資金援助は審査の対象になっています。オーストラリア法改正審議会は、近時、集団訴訟手続と第三者による訴訟資金援助についてのディスカッションペーパーを公表し、現在コンサルテーション手続中です。法務省長官は2018年12月に最終報告を行う予定です。

法的責任の根拠

製造物の安全性や品質に関する訴訟の多くは、オーストラリアの法律における下記の3分野のうちの一つ以上に基づいて発生します。

  • オーストラリア消費者法(ACL)
  • 契約に関するコモン・ロー
  • 連邦政府機関

完全を期すため、上記に加えて多岐にわたる制定法と、一定の消費者商品(食品、医薬品、医薬機器、電化製品、自動車を含む)の供給を所管する連邦および州・準州の規制機関が存在します。

オーストラリア消費者法

ACLには多岐にわたる消費者保護規定が含まれており、これらの規定は、消費者製品のサプライチェーンのあらゆる構成員(供給者、輸入者、製造者、およびオーストラリアでの消費者製品の広告宣伝に責任を負う者を含む)に義務を課します。消費者保護規定は、以下のような内容を争う訴訟のための請求原因となり得ます。

  • 安全性基準または情報基準に対する違反。これらの基準は、特定の消費者製品について遵守が必須となる最低限の強行的な基準です。
  • 誤解を招くあるいは人を欺く行為。これらは通常、宣伝広告によってまたは製品に付随する情報によって行われます。財産的損害または経済的損失の補償を求める製造物責任に関する訴訟の多くは、製品の製造者、輸入者、または販売者が、誤解を招くあるいは人を欺く行為を行ったという主張を含んでいます。
  • 消費者製品の供給者に対する提訴を可能とする法定の「消費者に対する保証」(製品の適正品質、目的適合性、そして販売時の製品説明の正確性の保証を含む)に対する違反。
  • 商品に「安全上の欠陥」があったことにより蒙った損害または損失。ACLは、欠陥商品の製造者・輸入者に対して、概ねEU製造物責任指令に基づく厳格責任制度を定めています。すなわち、欠陥商品により損害を蒙った者は、当該製品の製造者の過失(fault)を証明しなくても、当該製造者から損害賠償を求めることができます。製品の安全性が一般の人々が期待する程度に至っていないと判断される場合、かかる製品は「欠陥商品」であるとされます。

個人が損害賠償請求を行う場合、個人(複数の場合を含む)を代表して規制当局が損害賠償を行う場合、または民事もしくは刑事上の制裁を科すために規制当局が損害賠償請求を行う場合の方法を規律するルールが存在します。例えば、誤解を招くあるいは人を欺く行為についての損害賠償請求については、人身傷害の賠償金は支払われません。またオーストラリア法(ACLと州・準州の民事責任に関する法律の両方)は、製造物責任における人身傷害に関する損害賠償請求に制限を設けています。

商品に安全上の欠陥があるという主張に基づく訴訟については、下記の複数の抗弁の方法があります。

  • 主張されている欠陥が、商品が製造者により供給された時点で存在しなかった
  • 商品の欠陥は、強制基準に遵守したことのみを理由として生じた
  • 商品が供給された時点の科学的または技術的知識の水準が、その欠陥の発見を可能とするには至っていなかった
  • 製品に使用される部品の製造者の場合、その欠陥は、部品の欠陥であるというよりも、完成品の設計を原因としているか、完成品の製造者による表示、指示または警告を原因としたものである

ACCCの近年の活動(文書・情報の収集や連邦裁判所における制裁手続において広範な権限を行使していること)は、ACCCが製品の安全性と品質に関する問題に対してますます積極的に措置を実施しようとしていることを示唆しています。

  • 2016年の初めに、あるオーストラリアの大規模な小売業者が300万豪ドルの制裁金を課されました。これは、ある消費者製品が人身傷害に寄与していると当該事業体が把握した後もその製品の販売提案を行うことにより、そしてある消費者製品の品質について特定の表示をすることにより、当該事業体が誤解を招くまたは人を欺く行為を行ったというACCCの主張を受けてのことです。
  • 2018年には、電子調理機器を製造販売する業者が業者が450万豪ドルを超える罰金を課されました。上記と同種の違反と、製品のリコールと人身傷害の報告を受けていたにもかかわらず、対メディアおよび消費者に製品が「絶対に安全である(absolutely safe)」と発言したことが理由です。
  • 2018年、自動車製造業者が極めて不当な行為に関して1000万豪ドルの罰金を支払うことに合意 (consent orders)しました。これは特定の車種の品質の問題(安全の問題ではありません)に関する顧客の不満の処理の仕方が極めて不当であったことを理由とするものです。

さらに、2016年~2017年のオーストラリア消費者法レビューの結果を踏まえた対応が続いており、議会では立法的な改正が議論されています。最新の状況としては、新法がACLにおける罰金の上限額を相当程度引き上げ、競争法違反の場合と平仄を揃えたかたちになります。

上記に加えてACLは、製品関連の死亡や重大な傷病事故についての報告、そして製品リコールについて、消費者製品の供給に関する義務を課しています。

ACLの第131条に基づき、供給者が人の死亡あるいは重大な傷病を認識した場合であり、

  • 供給者自身が、消費者製品の使用または予見可能な誤使用により事故が起こったか、起こった可能性があると考えた場合、または、
  • 供給者以外の者が、消費者製品の使用または予見可能な誤使用により事故が起こったか、起こった可能性があると考えることを供給者が認識した場合、供給者は2日以内に所管大臣に書面で事故の通知を提出しなければなりません。

ACLにおいて、重大な傷病とは、「医療従事者もしくは看護師による、またはそれらの者の指示による医学的・外科的治療(病院、クリニックまたはこれらに類する場所で行われるか否かを問わない)が必要な深刻な身体的傷害・疾病」と定義されています。同様に、死亡または重大な傷病のない財産的な損害だけでは、強制報告義務は発生しません。薬品・医薬品法制または公衆衛生法制など他の報告義務が課されている場合には、ACLの第131条に基づく強制報告義務は発生しません。

報告義務の有無を判断は難しい場合が多いですが、ACLの要件に従って死亡や重大な疾病を報告することを怠った場合、重大な制裁が科されることになります。

自主的製品リコールは、製品の安全性または品質に関する問題を発見し、適切な調査を行い次第、供給者はいつでも開始することができます。

コモン・ロー上、消費者製品の製造者と供給者には、自社の製品が消費者に傷害を与えることのないよう合理的な注意を払う義務があります。この義務は、製品の製造と販売の時点だけでなく、その後にも適用されます。製造者は、製品が市場に出たり使用されるようになったりした後にその製品の危険が明らかになったような場合でも、適切な行動を取らなくてはなりません。

  • 製品に関連して生じる可能性のある危険の重大性
  • そのような危険が起こる可能性
  • 想定される是正方法の費用、困難性および不都合

製造者は、かかる要素を比較衡量しなくてはなりませんが、重視しなくてはならないのは、消費者の安全であり、これは単なる費用対効果の問題ではないことを認識しておかなくてはなりません。人の死亡や重傷を引き起こすような重大性のある危険の場合には、製品リコールの十分な理由があるといえるでしょう。

自主的リコールの実施は、限られた法律により規律されています。ACLの下では、安全上の問題に関連してリコールを実施する者は、リコール実施後2日以内に所管大臣に対して通知をしなくてはなりません。何が「リコール活動」を構成するのかは定義されているわけではありませんが、安全性を理由とした製品の修理や改善と、市場からの商品の撤去は、リコール活動の一環として行われる可能性が高いものです。

製品リコールの実施においては、食品、医薬品、医療機器、電気製品、自動車などの特定の種類の製品に関する連邦法および州・準州の法律とガイドラインも考慮しなくてはなりません。

自主的リコールの実施や進捗は法律により規律されませんが、ACCCおよび連邦および州・準州の専門的規制当局は、それぞれ安全でない製品のリコールまたは供給停止のための権限を有しています。一般的に、これらの強制的リコール権限は、商品が人的損傷を引き起こすかその可能性がある場合であって、供給者がその商品による人的損傷を防止する十分な措置を講じていないと考えられる場合にのみ、行使されます。

州法も、一定の故意の汚染や改ざんに関して報告義務を課しています。

契約に関するコモン・ロー

製品が、製造者から小売業者に、または小売業者から消費者に供給された場合、当事者となる二者間には契約関係が生じ、当事者間の契約の条件が両当事者の関係を規律します。ただし、契約の相対性 (privity of contract)の原則のため、契約の当事者でない第三者は、商品により傷害を蒙ったとしても、通常は契約法の下で供給者に損害賠償を請求することはできません。

州および準州の商品販売法に基づき、商品供給契約には、製品の品質に関する黙示の保証条項が組み込まれます。場合によっては、この保証条項を除外または変更できない可能性があります。もし、かかる黙示の条件に対する違反があった場合、製品の受領者は、契約違反に基づいて訴訟を起こすことが可能です。

また、ACLのもとでも、顧客に対する商品の供給には、法定の保証(許容可能な品質など)が与えられています。

過失責任に関するコモン・ロー

オーストラリアでは、過失(negligence)による不法行為に関するコモン・ローは、製造物責任訴訟における法的権利および救済方法の重要な根拠として機能し続けています。かかる過失責任に関するコモン・ローによると、以下の3つの要件を満たす場合に、原告から製造者への損害賠償請求が可能です。 

  • 製造者(被告)が、原告に対し、法律上の注意義務を負っており、
  • 被告が、法律が要求する注意の基準を満たさずに、かかる注意義務に違反した結果、
  • 原告が、かかる義務違反に基づき損害を受けた場合。
オーストラリアでは、製品の製造者は、製品を購入または使用した者に対して、製品の供給者よりも広範な注意義務を負うというルールが、一般的に確立しています。

コモン・ロー上は、製造者は、製品の設計、製造、安全、および販売について考慮する際、合理的な範囲で、製品を使用する者のことを想定し、注意を払うべきであるものとされています。

供給者は、欠陥商品を提供しないようにする義務や、特定の商品について警告を伝える義務を負っています。裁判例には、制定法上の義務を準用し、供給者の責任を問うためには供給者に過失があることや警告を怠ったことに関して害意があることは不要として、供給者に実質的な厳格責任を課したものもあります。

2003年に、人身傷害の賠償額の大きさと、保険料の高騰に対する社会一般の懸念に対応して、州および準州政府は、広範囲にわたる民事責任に関する法律の改正を行いました。この改正により、裁判で認められる損害賠償額が制限されただけでなく、過失責任に基づく人身傷害賠償請求を提起することや勝訴することが従前よりも難しくなりました。

かかる改正は、それぞれの州・準州によって違いがありますが、概ね次のような内容になっています。

  • 過失責任に関する法を部分的に成文化する。
  • 一定の種類の請求に関して特別の抗弁を創設する(アスベストあるいはその他の塵肺関連のケースを除き、製造物責任はかかる特別の抗弁が適用される種類の請求には含まれていません)。
  • 裁判所で認められる損害賠償額に上限や基準値を設ける。州や準州によっては、訴訟前の紛争解決手続の利用を義務化したところもあります。

上記改正に関してより議論を生む問題のひとつは、過失法の一部成文化により実体法に変更が加えられたのか、仮にそうであれば、原告による請求は容易になったのか困難になったのか、という点です。改正によってすぐに現れた効果として、人身損害賠償訴訟の数は減っていますが、依然としてかなりの数があります。

救済方法

金銭的損害/非金銭的損害のいずれに対しても、金銭による損害賠償が認められます。さらに、裁判所は、消費者保護規定の一定の違反があった場合や違反が行われようとしている場合に追加で差止命令を下すこともできます。裁判所には広範な権限が与えられており、違反に関与した者に対し、裁判所が適切であると判断する内容の命令を下すことができます。

損害賠償

契約責任および過失責任に基づく損害賠償の算定と、法定の請求原因に基づく損害賠償の算定には、多くの技術的な違いがありますが、一般的には、製造物責任訴訟で勝訴した原告は、以下の損害賠償を受けることができます。

  • あらゆる肉体的・精神的苦痛に対する損害賠償
  • 医療費を含め、傷害の治療や損害を受けた財産の修繕のために負担した費用に関する損害賠償
  • 傷害や損害のため生じた得られるべき収入の減少に関する補償
  • 傷害の治療や損害を受けた財産の修繕のため将来発生する費用に関する補償
  • 推定寿命の短縮または所得能力に対する継続的障害に関する補償

裁判所は、懲罰的損害賠償または加重損害賠償を命じることができます。ただし、これらの種類の損害賠償は、ACLに基づく訴えに関連するものには認められず、州や準州によっては人身傷害賠償を求める過失責任訴訟でも認められません。

過失責任による人身傷害請求に関しは、民事責任に関するルールが改正され、損害項目に応じて損害賠償額が制限されています。さらに、契約法および制定法は、裁判所に様々な金銭賠償以外の代替的な救済を命じる権限を与えており、被害者救済のための措置を取るよう製造者や供給者に命じることができるようになっています。

連絡先

Get in touch information is loading

All People in 製造物責任

Show all people in 製造物責任Hide all people in 製造物責任