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導入

資金調達に関するオーストラリアの法制度は、発行者にとって使いやすいものとして広く認知されており、長年にわたって、市場環境の許す限り、発行市場および流通市場における資金調達を促進してきました。

オーストラリアにおける資金調達活動に関する規制は、会社法に定められています。同法が規制する資金調達活動の例として、金融商品がオーストラリアの発行者によって発行されるか外国の発行者によって発行されるかにかかわらず、オーストラリア国内で募集されるすべての金融商品に会社法が適用されます。「金融商品」の定義は幅広く、株式、信託のユニット、パートナーシップの持分、社債を含みます。かかる規制は、オーストラリア国内における金融商品の募集や申込みの勧誘を対象としており、発行、販売、譲渡がどこで生じるかにかかわらず適用されます。

会社法に違反すると発行会社、発行会社の取締役、アドバイザー、引受人は民事・刑事責任を負う可能性があります

投資家への情報開示

一般に、金融商品の募集は、開示書類が作成され、かつ、一定の場合には同開示書類がオーストラリア証券投資委員会(ASIC)へ提出されていなければ行ってはなりません(いくつかの例外はあります)。開示書類の内容は、会社法が規定する要件を満たしていなければならず、かつ、いくつもの手続を踏む必要があります。

例外に該当しない限り、新規または既発行の金融商品の市場外での募集または売出しについては、投資家への情報開示が義務付けられています。

通常、既発行の金融商品の売出しの際は情報開示は求められません。ただし、証券(すなわち株式や社債)の発行から12か月以内の売出しや発行体の支配者による市場外での売却については、投資家への開示が義務付けられる可能性があります。証券の売却に際して必要な証券に関する開示書類は、募集情報文書(OIS: offer information statement)と目論見書(prospectus)のいずれかになります

開示書類が必要となる場合、OISを用いることができる場合を除き、原則として、目論見書を作成する必要があります。目論見書には、完全目論見書(full prospectus)、要約目論見書(short form prospectus)、取引固有目論見書(transaction specific prospectus)があります。

(a) 完全目論見書

完全目論見書は、典型的には、オーストラリア証券取引所(ASX)における新規株式公開の際に用いられます。会社法は、完全目論見書における一般的な開示要件を定めていますが、その中には、次のような事項について、投資家やその専門家アドバイザーが十分な情報に基づいた投資判断をするために合理的に必要なすべての情報が含まれています。

    • 募集されている証券に係る権利および義務
    • 証券の発行体の資産・負債の状況、財務状態・業績、損益、将来の見通し

(b) 要約目論見書

要約目論見書が完全目論見書と違う点は、ASICに既に提出済みの一定の文書への参照部分があることのみです。すなわち、目論見書の中にすべての詳細情報を記載する代わりに、単にASICに既に提出されている文書を参照することが認められています。

(c) 取引固有目論見書

取引固有目論見書においては、通常の目論見書と比べて開示する情報内容についての要件が緩和されており、証券取引所に既に上場している発行体のみが利用することができます。

OISは、最高1000万豪ドルまでの資金調達についてのみ用いることが可能で、開示する情報内容についての要件が緩和されています。

有価証券(securities)以外の金融商品の開示書類は、商品開示文書(PDS: Product Disclosure Statement)と呼ばれています。

また、会社法には、金融商品の不招請勧誘や金融商品の募集に関する広告についての規制も設けられています。

例外規定

金融商品の募集のうち、会社法上の例外に該当する場合、または、ASICが一般的または個別に例外を認めた場合(例えば、一定の従業員インセンティブ制度の場合など)については、開示書類を提出する必要がありません。かかる例外には、次のものがあります。

  • 金融商品の募集に対して申込みを行う際に支払う金額が50万豪ドルを超える場合、または同一の者が保有している同じクラスの金融商品につき以前支払った金額との合計額が50万豪ドル以上になる場合。
  • 前2年度の総所得がいずれの年度についても25万豪ドル以上の投資家、もしくは純資産が250万豪ドル以上の投資家に対して募集を行う場合。この場合は、資格のある会計士により所得または資産の証明がなされることが必要です。
  • その他の一定の知識・経験のある投資家や機関投資家(ストックブローカー、一定の年金・生命保険基金、証券投資目的で1,000万豪ドル以上を運用する者を含む)に対して募集を行う場合。
  • 12か月間で20名以下の投資家から200万豪ドル未満のみ調達する小規模募集

また、外国の発行者が対象となる例外規定や、公開買付けまたはスキーム・オブ・アレンジメントに伴う発行に関する例外規定があります。適格なライツ・イシューや株主割当てによる募集については、正式な開示書類なしに行うことができます。同様に、適格なSPP(security purchase plan)に基づく既存株主向けの募集も正式な開示書類なしに行うことができます。

これらの例外規定に表れているように、オーストラリアの法制は、海外の多くの国と比べ資金調達活動にとってより有利なものです。セカンダリーオファリング (私募、ライツ・イシュー、株主割当て)については、多くの場合、正式な目論見書やPDSなしに行うことが可能とされています。

責任

会社法に基づき証券の募集を行うことに関して、発行者が責任を負う可能性があるのは、主に以下の2つの場合です。

  • 開示書類が必要であるにもかかわらず、開示書類を提供せずに募集を行った場合
  • 開示書類において、記載に誤りがあるか、必要事項の記載が欠落していた場合

違反があった場合には、民事上および刑事上の責任を負う可能性があります。一定の場合には、発行会社の取締役、アドバイザー、引受人も責任を負うことがあります。

クラウドソースファンディング

2017年9月、クラウドソースファンディング(CSF)の仕組みが開始しました。非上場の公開会社のうち適格性を有する会社が、CSF募集書類を使用して一般投資家から小額資金を調達する仕組みです。

CSFを利用するには、発行会社は総資産・売上高ともに2500万豪ドル未満でなければなりません。CSFで調達可能な額は、12か月間で500万豪ドル(小規模募集の例外を利用して実施した資金調達を含む)で、各投資家から調達可能な額には1万豪ドルの上限がついています。

CSFにより募集を行う会社のうち、一定の要件を満たす会社は、開示、監査、定時株主総会の開催義務など公開会社に通常課される義務のいくつかが5年間を上限として免除されます。

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