外国投資
外資審議委員会(FIRB)は、外国からの投資案件を審査し、連邦政府に対して助言を行います。外国からの投資に関する決定権限を有するのは、連邦財務大臣です。
財務大臣は、投資案件の内容や性質に応じて、「国益」または「国家安全」に照らしてケースバイケースで審査します。国益や国家安全は、FATAにおいて具体的で一義的な定義が定められているわけではなく、諸般の事情を総合的に考慮して判断される広汎な概念です。財務大臣は、国益や国家安全に反する外国投資を禁止したり、国益や国家安全に反しない方法で投資が実行されるようにするために一定の条件を付する権限を有しています。
オーストラリアの事業、農業用地および商業用地の取得に関する規制については、オーストラリア財務省が管理・執行しています。居住用不動産に関する規制については、オーストラリア国税庁(ATO)が管理・執行しています。ATOは、すべての「外国人」が保有する農業土地を農業用地登記簿に記録して管理しています。
外国投資に関する規制は、「外国人(foreign person)」による投資に適用されます。外国人は、以下のいずれかにあたるものと定義されています。
- オーストラリアに通常居住していない個人
- 外国政府または外国政府投資家[1]、
- 以下のいずれかが該当する法人、信託の受託者、またはリミテッド・パートナーシップの無限責任パートナー
(i)1名の非居住者(オーストラリアに通常居住していない個人、外国法人または外国政府)が単独で20パーセント以上の持分を有するもの
(ii)複数の非居住者が合計で40パーセント以上の持分を有するもの
[1] 外国政府投資家は、外国政府だけでなく、政府系ファンド、国が支援する年金ファンド、ならびに一つの外国政府投資家(または同じ国の複数の外国政府投資家)が20パーセント以上出資する法人、信託の受託者、またはリミテッド・パートナーシップ(無限責任パートナーが外国人と扱われる)および複数の国の外国政府投資家が合計で40パーセント以上出資する法人、信託の受託者、またはリミテッド・パートナーシップも含まれます。ただし、相互に関係のない外国政府投資が合計で40パーセント以上の「受動的」持分を有する投資ファンドの場合は、複数で合計40パーセントという基準は適用されません。Back to article
外資審議委員会(FIRB)に対する届出
FIRBに対する事前届出義務の有無は、外国投資家の種類、投資の種類や性質、投資金額等によって決定されます。
届出義務に関する重要な概念は、「通知義務行為(notifiable action)」、「国家安全通知義務行為(notifiable national security action)」、「重要な行為(significant actions)」と「国家安全審査可能行為(reviewable national security action)」の四つです。
通知義務行為と国家安全通知義務行為は、外国人が事前に財務大臣に対して投資提案について届出を行い、投資実行前に許可を得る必要がある行為です。届出を怠った場合、民事制裁金や刑事罰が科されることがあります。届出義務は、投資が一定の基準を満たす場合にのみが発生しますが、様々な類型があります。支配権の変更が起こらない取引においても通知義務行為や国家安全通知義務行為に該当することがあります。
重要な行為と国家安全審査可能行為は、投資の実行前に届出を行うことが求められない行為です。しかしながら、財務大臣は、FATAに基づき、国益に反することを理由に重要な行為の実行を禁止したり、国家安全に反することを理由に国家安全審査可能行為を審査して禁止することを含む幅広い権限を有しています。したがって、重要な行為を実行しようとする場合には、実務上、財務大臣に任意の届出を行い、投資提案に反対しない旨の通知を取得しておくのが一般的です。また、国家安全審査可能行為を実行しようとする場合には、財務大臣に任意の届出を行い、投資提案に反対しない旨の通知を取得しておくべきかどうかを個別に判断する必要があります(審査期間については下記参照)。重要な行為または国家安全審査可能行為について財務大臣に任意に届出た場合、投資提案に反対しない旨の通知を取得するか、審査期間が満了するまでに財務大臣が決定を行わない限り、投資を実行することができません。
財務大臣による決定がなされる前であっても、通知義務行為、国家安全通知義務行為、重要な行為または国家安全審査可能行為に関する契約を締結することは可能ですが、契約上、財務大臣が取引を禁止しないことを契約実行のための前提条件としておく必要があります。
外国投資について届出は、オンラインフォームを使って行われます。届出が行われた後も、FIRBの要請に応じて、一定の情報を追加で提出することが必要となるのが一般的です。
オーストラリアの事業、農業用地および商業用地への外国投資に係る申請は財務省、居住用不動産への外国投資に係る申請はATOが、それぞれ審査することになっています。
届出を行う場合、所定の申請手数料を納付する必要があります。
外国人が必要な届出義務を怠ったり、その他の外国投資規制に違反した場合、民事制裁金や刑事罰が科されることがあります。
金額基準
多くの場合、一定の金額基準を満たす投資提案のみが財務大臣への届出義務の対象となります。金額基準は、投資家の種類や投資行為の種類によって異なります。金額基準は、以下の一覧表のとおりです。
下記の金額基準に関する一覧表は、2022年1月1日時点のものです。金額基準は、毎年1月1日に調整されます(別段の定めがある場合を除く)。
土地取引を伴わない投資案件
投資家 |
取引内容 [2]
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基準額 – 下記の金額を超えた場合に届出義務が発生 |
より高額の(つまり緩和された)基準額が適用される自由貿易協定(FTA)相手国の民間投資家 [3]
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以下についての「相当の権利」 [4]の取得:
- オーストラリアの会社またはユニットトラスト
- オーストラリアの資産またはオーストラリア子会社を有している外国法人であって、オーストラリアで事業を営む外国法人(または、その外国法人の親会社)
オーストラリア事業に対する権利の取得で、その事業の支配権の変更が生じるもの(または既に事業の支配権を有している者の持分が増える場合)
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12億5,000万ドル(非センシティブ事業)
2億8,900万ドル(センシティブ事業[5] )
オーストラリアの会社またはユニットトラストの「相当の権利」の取得の場合、基準額は、対象会社またはユニットトラストの総資産または発行済有価証券(株式またはユニット)の価値の総額のいずれか高い金額に基づく。
オーストラリア事業に対する権利の取得の場合、基準額は、取得対価の総額に基づく
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オーストラリアにおける事業の全部または一部がメディア事業[6]である企業またはこのような事業の5パーセント以上の持分の取得
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0ドル
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オーストラリアのアグリビジネス[7]の「直接的権利」[8]の取得
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チリ、ニュージーランド、米国については、12億5,000万ドル
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その他の国については、6,300万ドル(累計)(取得対価および当該対象事業について外国人(関係者を含む)が既に保有している他の権利の総額に基づく)
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国家安全関連事業[9]または国家安全関連事業を営む法人の直接的権利[8]の取得、あるいは国家安全関連事業の開始 |
0ドル |
その他の民間投資家
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以下についての相当の権利[4]の取得
オーストラリア事業に対する権利の取得で、その事業の支配権の変更が生じるもの(または既に事業の支配権を有している者の持分が増える場合)
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2億8,900万ドル(すべての分野)
オーストラリアの会社またはユニットトラストの相当の権利の取得の場合、基準額は、当該会社またはユニットトラストの総資産または発行済有価証券(株式またはユニット)の価値の総額のいずれか高い金額に基づく。
オーストラリア事業に対する権利の取得の場合、基準額は、取得対価の総額に基づく
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オーストラリアにおける事業の全部または一部がメディア事業[6]である企業またはこのような事業の5パーセント以上の持分の取得
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0ドル
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オーストラリアのアグリビジネス[7]の直接的権利[8]の取得
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6,300万ドル(累計)(取得対価および当該事業体について外国人(関係者を含む)が既に保有している他の権利の総額に基づく)
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国家安全関連事業[9]または国家安全関連事業を営む法人の直接的権利[8]の取得、あるいは国家安全関連事業の開始 |
0ドル |
外国政府投資家
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オーストラリア事業またはオーストラリア企業の直接的権利[8]の取得(外国政府投資家が完全子会社を新設した結果発生する直接的権利の取得を除く)[10]
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0ドル
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オーストラリアでの新規ビジネスの開始
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0ドル
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オーストラリアにおける事業の全部または一部がメディア事業[6]である企業またはこのような事業の5パーセント以上の持分の取得
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0ドル
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[2] FATAは、すべての外国からの投資について、その仕組みにかかわらず適用されます(例えば、準デット証券(転換社債など)は、外国投資規制上はエクイティとして扱われます)。Back to article
[3] 2022年1月1日時点の締結国・地域は、カナダ、チリ、中国、香港、日本、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、韓国、米国およびベトナムです。また、この高額の基準額は、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP-11)が発効した加盟国についても適用されることになります。Back to article
[4] 外国人(およびその関係者)が、企業の20パーセント以上の持分を有するようになった場合、信託の収益または資産の20パーセント以上の受益権を有するようになった場合、または、既に20パーセント以上の持分や受益権を有する外国人がその持分や受益権を増やす場合、「相当の権利」を取得したものとされますBack to article
[5] センシティブ事業とは、メディア、電気通信、輸送、軍事、暗号化・セキュリティ技術、通信システム、ウラン・プルトニウム抽出、核施設運営が含まれます。Back to article
[6] メディア事業への投資については、5パーセント以上の持分を取得する場合、投資金額にかかわらず、届出を行って事前に承認を得ることが必要となります。従来型の新聞や放送メディアに加え、特定のニュース、時事コンテンツ、オーディオやビデオコンテンツなどへのオンラインアクセスを提供する事業も、外国投資規制法令上のメディア事業に含まれます。Back to article
[7] アグリビジネスの定義は、農業、林業、水産業、および特定の加工製造業(肉類、家禽、魚介類、乳製品、果物、野菜の加工、砂糖、穀物、油・脂肪の製造)など、オーストラリア・ニュージーランド標準産業分類コード上の所定のクラスに分類される事業が含まれ、これら事業についての金利税引前収益が当該事業体の総収益の25パーセントを超えているものです。Back to article
[8] 「直接的権利」とは、a) 投資先の10パーセント以上の持分、b) 取得者の事業と投資先の事業に関する「法的取り決め」がなされている場合には、投資先の5パーセント以上の持分、または、c) 投資先の経営・支配に参加あるいは影響力を行使することができるか、または、投資先のポリシーに参加、決定、あるいは影響力を行使することができる場合には、基準はゼロになります。Back to article
[9] 以下の「国家安全関連事業 - 特別な産業分野」における詳細説明参照。
[10] オーストラリアで保有する資産が重要でない(オーストラリアの資産価値が全世界の資産価値の5%未満であり、かつオーストラリアの総資産価値が6,000万ドル未満であり、いずれの資産もセンシティブ事業または国家安全関連事業に関するものでない)外国企業の持分の取得は適用除外とされます。Back to article
土地取引を伴う投資案件
投資家 |
取引内容 |
基準額 – 下記の金額を超えた場合に届出義務が発生 |
全ての投資家
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居住用地[11] の取得
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0ドル
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更地の商業用地[12] の取得
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0ドル
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国家安全関連不動産[13] の取得 |
0ドル |
オーストラリア土地法人・信託[14] の権利の取得であって、居住用地、更地の商業用地、採掘・生産のための鉱業権 [15]の価値が当該事業体 の総資産の10パーセント以上を占める場合
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0ドル
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より高額の(つまり緩和された)基準額が適用される自由貿易協定(FTA)相手国の民間投家 [3]
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農業用地[16] (農業用地を所有している農業用地事業法人・信託[17] の持分を含む)の取得
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チリ、ニュージーランド、米国については、12億5,000万ドル
その他の国については、1,500万ドル(累計)。この基準額は、年次調整の対象外。
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開発済み商業用地[12](開発済み商業用地を所有しているオーストラリア土地法人・信託[14] の持分を含む)の取得
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12億5,000万ドル
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上場しているオーストラリア土地法人・信託[14] の10パーセント以上の持分の取得
上場していないオーストラリア土地法人・信託[14] の5パーセント以上の持分の取得
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12億5,000万ドル; |
採掘・生産のための鉱業権[18] (採掘・生産のための鉱業権を所有しているオーストラリア土地法人・信託[14] の持分を含む)の取得
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チリ、ニュージーランド、米国については、12億5,000万ドル
その他の国については、0ドル
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低基準額適用地(センシティブ土地)[19] の取得 |
香港とペルーについては、6,300万ドル
その他の国については、12億5,000万ドル
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その他の民間投資家 |
農業用地[16] (農業用地を所有している農業用地事業法人・信託[17] の持分を含む)の取得 |
タイの場合:土地が専ら第一次産業に使用される場合は5,000万ドル(これに該当しない場合、その土地は農業用地とみなされない)。この基準額は、年次調整の対象外。
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その他の国については、1,500万ドル(累計)。この基準額は、年次調整の対象外。
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開発済み商業用地 [12] (開発済み商業用地を所有しているオーストラリア土地法人・信託[14] の持分を含む)の取得 |
2億8,900万ドル |
低基準額適用地(センシティブ土地)[19] の取得 |
6,300万ドル |
上場しているオーストラリア土地法人・信託[14] の10パーセント以上の持分の取得
上場していないオーストラリア土地法人・信託[14] の5パーセント以上の持分の取得
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2億8,900万ドル
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採掘・生産のための鉱業権[18] (掘・生産のための鉱業権を所有しているオーストラリア土地法人・信託[14]の持分を含む)の取得 |
0ドル
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外国政府投資家
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土地の権利の取得
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0ドル
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探査のための鉱業権[20] または採掘・生産のための鉱業権[18]
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0ドル
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採掘、生産または探査に携わる事業体[21] の10パーセント以上の持分の取得
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0ドル
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オーストラリア土地法人・信託の持分の取得 |
0ドル |
[11] 居住用地とは、最低1戸の住宅が存在するオーストラリアの土地と、居住用地内に合理的に10戸未満の住居が建設可能なオーストラリアの土地を指します。専ら第一次産業のために使用される土地や、商業用住居(下記の注12を参照)は、居住用地とはされません Back to article
[12] 商業用地とは、専ら第一次産業のために使用される土地や居住用地に該当しない、オーストラリアの土地を指します。商業用地には、「商業用住居」、すなわちホテル、モーテル、寄宿舎、学校寮、特定の種類のマリーナ、キャラバンパーク、キャンプ用地なども含まれます。学生用住居と介護住宅は、商業用地として取り扱われます。Back to article
[13] 国家安全関連不動産とは、オーストラリア軍によって所有または占有されている土地、または国家諜報機関が権利を有していると公に知られている、または合理的な調査をすれば権利を有していることが分かる土地を指します。Back to article
[14] オーストラリア土地法人またはオーストラリア土地信託は、所有する(農業用地以外の)オーストラリアの土地の価値が、資産総額の50パーセントを超える法人や信託を指します。Back to article
[15] チリ、ニュージーランド、米国からの民間投資家による採掘・生産のための鉱業権の取得はこれには該当しません。Back to article
[16] 農業用地とは、第一次産業に使用されている、または合理的に使用可能な土地を指します。専ら第一次産業に使用されているわけではない土地については、一部の適用除外があります。2015年7月1日に農業用地登記簿が設立され、ATOにより記録・管理されています。なお、風力発電用地は農業用地に該当せず、風力または太陽光発電施設が設置されている土地は更地ではないとみなされます。Back to article
[17] 農業用地法人または農業用地信託とは、所有する農業用地の価値が資産総額の50パーセントを超える法人や信託を指します。Back to article
[18]採掘・生産のための鉱業権とは、オーストラリア国内、排他的経済水域、または大陸棚に存在する鉱物(石炭や鉄鉱石など)、石油または天然ガスを採取するための、オーストラリアの法律に基づく権利を指します(ただし、探査のための鉱業権 - 脚注20参照 - を除く)。また、次の(a)や(b)は、採掘・生産のための鉱業権とはされません:(a)外国政府投資家ではない外国人が国家安全関連不動産ではない土地に探査のための鉱業権を取得する場合;(b)採掘・生産のための鉱業権に対する直接の権利ではなく、それから生じる収益から一定の金銭を受領する権利であって、土地を占有する権利や土地に対するアクセスや占有者を決定する権利を伴わない場合。Back to article
[19] 低基準額適用地には、鉱山や重要インフラ(例:空港や港)などのセンシティブな土地が含まれます。所定の空域(airspaces)は低基準額適用地に定義される分類でない限り、低基準額適用地の定義から除外されています。Back to article
[20] 探査のための鉱業権とは、鉱物、石油または天然ガスの探査・調査を目的として、オーストラリア国内、排他的経済水域、または大陸棚に存在する鉱物(石炭や鉱石など)、石油または天然ガスを採取するための権利を指します。Back to article
[21] 採掘、生産または探査に携わる事業体とは、所有するオーストラリア国内の探査のための鉱業権または採掘・生産のための鉱業権の価値が、資産総額の50パーセントを超える事業体を指します。Back to article
国益に関する勘案事項
連邦政府は、外国からの投資案件を審査する際、国益に反しないかどうかを個々の事案ごとに判断しますが、典型的な考慮事項は以下のとおりです。
- 国家の安全:当該投資が、オーストラリアの戦略および安全を保持する能力にどの程度影響を及ぼすか。
- 競争:当該投資の結果、投資家がオーストラリア国内の商品やサービスの市場価格や生産を支配することになる可能性があるか、または投資家が世界への商品やサービスの供給について支配することになる可能性があるか。
- オーストラリア政府の政策:当該投資が、オーストラリアの税収や、環境問題に係る目標値など、オーストラリアの政策に影響を及ぼす可能性があるか。
- オーストラリアの経済・地域社会に与える影響:当該投資(投資後に予定される再編を含む)が、オーストラリアの経済全般に影響を及ぼす可能性があるか。また、オーストラリア国民のために公正な恩恵をもたらすものであるか。
- 投資家の特徴:投資家が透明性の高い商業的基盤に基づいて活動しているか。また、十分かつ透明性のある規制および監督の対象となっているか(当該外国投資家のコーポレートガバナンスの実務も考慮)。
また、連邦政府は、農業分野に対する外国からの投資提案を審査する際、通常、以下のような事項に対する影響について考慮します。水資源を含むオーストラリアの農業資源の質と量、土地のアクセスおよび使用、農業生産および生産性、オーストラリアが国内の地域社会および貿易相手国の双方にとって信頼される農産物供給者であり続けられる能力、生物多様性、オーストラリアの地域社会における雇用および繁栄など。
国家安全に関する考慮事項
オーストラリア政府は、ある行為が国家安全に反するかどうかや、国家安全上の懸念を生じさせるかどうかをどのように審査するかについて明確にしていません。しかし、「国家安全関連事業(national security business)」を特定する目的において、国家安全の定義にはオーストラリアの防衛、安全、国際関係や法執行が含まれています。
国家安全関連事業 - 特別な産業分野
上述のとおり、外国人による「国家安全関連事業」または「国家安全関連事業」を営む法人の直接的権利(10パーセント以上の持分)の取得、あるいは「国家安全関連事業」の開始は、基準額が0ドルの(つまり金額に関係なく)国家安全通知義務行為に該当します。FIRBの承認は投資実行前に取得する必要があり、届出義務を怠った場合は制裁が科されることがあります。
「国家安全関連事業」とは、次の事業であることが公に知られている、または合理的な調査をすれば次の事業を行っていることが分かるものを指します。
- 2018年重要インフラ資産安全法(連邦法)に定義される重要なインフラ資産の責任エンティティとされる事業、またはこれら資産の直接的権利を保有する事業(詳細の説明については以下を参照)
- 1997年電気通信法(連邦法)が適用される電気通信事業のキャリアまたはキャリアプロバイダー
- 軍・諜報機関関連者または他国の軍・諜報機関によって軍事・諜報活動に利用されるための製品・技術を開発、製造または供給する事業
- 軍・諜報機関関連者または他国の軍・諜報機関に重要なサービスを提供する事業
- 国家機密情報の保存またはそれにアクセスできる事業
- アクセスがあればオーストラリアの国家安全を危険にさらす可能性のある軍・諜報機関関連者の個人情報を保存・維持・収集する事業
上述の「重要インフラ資産」は非常に幅広く定義されています。2021年12月の重要インフラ資産安全法の改正により「重要インフラ資産」の範囲が著しく拡大され、所定の電力に関する資産、港、水資源資産、ガスに関する資産、航空に関する資産、銀行に関する資産、放送に関する資産、データ保存・処理に関する資産、防衛産業に関する資産、教育に関する資産、エネルギー市場オペレーター、金融市場インフラ資産、食品・日用品資産、貨物インフラ資産、貨物サービス、保険に関する資産、液体燃料に関する資産、公共交通網・システム、年金資産、通信に関する資産、ドメインネーム・システムその他連邦内務大臣がオーストラリアの社会的・経済的安定性、防衛、国家の安全保障の観点から重要であると定めた資産が含まれます。
外国政府による投資
連邦政府は、外国政府および外国政府投資家による投資案件を審査する際、通常の考慮事項に加えて、以下のような事項についても考慮します。
- 外国政府投資家が、外国政府に完全に所有されているのか部分的に所有されているのか、また、当該投資家が、完全にアームズ・レングスで、かつ商業的基盤に基づいて運営されているか
- 当該投資が商業的性質のものなのか、それともオーストラリアの国益に反する可能性のある政治的または戦略的な目的を追求しようとするものなのか
- 当該投資の規模、重要性および潜在的インパクト
オープンかつ透明性のある売却手続
外国人が第一次産業または住居の開発をするために農業用地を取得しようとする場合、オーストラリア国内の投資家が当該土地を取得する機会があったことを証明する必要があります。この要件は、このような取引に関連する除外証明(下記参照)を申請する場合にも要求されます。どのような手続であれば、オープンかつ透明性のあるものといえるかは、事案によりますが、一般的には、幅広く広告して入札の機会を平等に与えれば十分です。取得対象事業がすでに「外国人」にあたる場合や、オーストラリア国内の投資家が取得の過程に十分に参加できる場合には、裁量により、本要件の適用が免除されることがあります。
除外証明
一定のオーストラリアの土地の権利の取得と、オーストラリアの事業またはオーストラリア企業の証券(引受業者を通じて取得したものを含む)のいずれかまたは両方の権利取得については、除外証明を申請することができます。
除外証明 - 不動産
以下の者は除外証明を申請できます。
- オーストラリアの土地の権利の取得回数が多い外国人:取得可能な金額の上限と期間の限定が定められます。
- デベロッパーその他のベンダー:一つの開発物件につき50戸以上の新築住居(集合住宅など)を外国人に販売する場合、外国人向けの販売戸数が全体の50%を超えない限り、個々の外国人買主が各々外国投資の承認を取得することが不要となります。
- 一時居住者である外国人:一つの中古住居を取得するための試みを複数回行おうとする場合(たとえば相対でのオファー、入札、オークション)、個別に外国投資の承認を取得することは不要となります。この場合の除外証明は、6ヶ月有効とされるのが一般的で、取得した物件をオーストラリアにおける主たる住居として使用することが求められます。
- オーストラリアの土地を取得して新築住居を建設しようとする者:住居に関する権利の全部または一部が外国人に対して販売される準新築住居(near-newdwelling)の権利となる場合。財務大臣は、外国人への販売が国益に反しないと判断した場合、適用除外証明を付与することができます。
- 以下のいずれかを取得しようとする外国人
- 新築住居に関する権利
- 準新築住居に関する権利
- 更地の居住用不動産に関する権利
財務大臣は、外国人による上記の権利の取得が国益に反しないと判断する場合、除外証明を付与することができます(FATR 43B条)。
除外証明の有効期間中に行われた取得は、報告をする必要があります。
除外証明 - 事業と企業
オーストラリア事業やオーストラリア企業の証券(引受業者によって取得されるものを含む)のいずれかまたは両方の権利を複数回取得しようとする外国人は、除外証明を申請できます。これにより、外国人(政府系の年金ファンドなどの外国政府投資家を含む)は、個々の取得行為について逐一届出を行うのではなく、一回の届出を行うだけで、除外証明で指定された期間中に複数の低リスク投資を行うことが可能となります。なお、この除外証明付与の可否についての審査においては、申請者が過去にオーストラリアの法令を遵守していたかどうかが考慮されることとなっているため、初めてオーストラリアに投資する外国人に対してこの除外証明が付与される可能性は低いと言えます。
除外証明 - 国家安全に関連する行為
国家安全通知義務行為、国家安全審査可能行為、または、これらの行為を複数回実施しようとする外国人は、除外証明を申請できます。除外証明は、それに付された条件が遵守されない場合、失効します。
外国のカストディアン
外国の法人カストディアンが、証券、資産、信託、オーストラリアの土地、または鉱業権に対する権利を、通常の業務の一環として取得し、他のカストディアンか、カストディアンのサービスを受ける証券、資産、信託、土地、または鉱業権の受益者による指示のみに従って議決権を形式的に行使するだけの場合には、適用除外となります。本例外は、国家安全審査可能行為には適用されません。
オーストラリア政府から取得する事業または土地
連邦政府、州、準州、地方自治体またはこれらが100%所有する機関からオーストラリアの土地またはオーストラリア事業の権利を取得する場合は、適用除外となります。
ただし、この適用除外は、以下の場合は適用されません。
- 外国政府投資家による取得
- 国家安全に関するインフラがあるオーストラリアの土地の権利
- 国家安全関連不動産(または国家安全関連不動産に関する探鉱権)の権利
- 国家安全関連事業の権利
本適用除外は、国家安全審査可能行為にも適用されません。
貸金契約
証券、資産、信託、オーストラリアの土地、または鉱業権に関する権利の取得について、対象となる権利が、貸金契約を担保することのみを目的とした担保権であるか、貸金契約を担保することのみを目的とした担保権を実行することにより取得された場合であって、対象となる権利を保有または取得する事業体が、貸金契約を締結した事業体(あるいはその子会社、親会社、または担保受託者)であるか、貸金契約を締結した事業体が任命したレシーバー(またはレシーバー兼マネージャー)である場合には、FATAの適用が除外されます。
なお、かかる適用除外は、国家安全関連不動産(または国家安全関連不動産に設定される探査のための鉱業権)または国家安全関連事業に設定された担保権実行の結果取得した権利については、担保権がレシーバー(またはレシーバー兼マネージャー)によって実行された場合でない限り、適用されません。
また、取得する権利が居住用地に関するものである場合や、外国政府投資家が担保権実行により権利を取得する場合は、追加の条件が充足されない限り、適用除外とはなりません。
法定の審査期間
FATAは、任意に通知された重要な行為や国家安全審査可能行為、および通知することが義務である通知義務行為や国家安全通知義務行為について正式に提出された承認申請を審査して決定するための審査期間について定めています。財務大臣は、法定審査期間内に決定を行わない場合は、投資を禁止したり、条件を付すことができなくなります。この審査期間は、オーストラリア政府が申請手数料を満額受領した時点から起算されます。
審査期間は原則30日ですが、期間満了前に以下の方法で延長することができます。
- 申請者による任意の要請(これは審査期間延長の仮命令(下記参照)を避けるために行われることがあります)
- 財務大臣による最大90日の延長命令
財務大臣は、審査期間満了から10日以内に、申請の対象である外国投資案件について、以下のいずれかの決定内容を申請者に通知します。
- 連邦政府として異議を唱えないこと
- 特定の条件付きで、連邦政府として異議を唱えないこと
- 連邦政府として異議があるため、投資の実行を禁止すること
承認プロセスおよび仮命令
仮命令
案件が複雑である場合や、更なる情報が必要な場合、財務大臣は、審査期間満了前に仮命令を出すことができます。仮命令は、Federal Register of Legislationで公開され、最大90日まで審査期間を延長することができます。
ひとたび仮命令が出されると、申請者は、期間の延長を任意に要請できなくなります。
承認プロセス
多数の同種案件がある投資申請の場合、オーストラリアの国益や国家安全に反すると判断されない限り、申請後30日以内に異議がない旨の決定が出されることが多いと言えます。
FIRBや他の政府諮問機関が大量の申請を処理している場合や、投資がセンシティブ分野・事業に関係する場合、オーストラリアの国益や国家安全に反する可能性のある政治的・戦略的目的を有する投資家が関与している場合などには、審査期間が30日を超える可能性が高くなります。
財務大臣は、連邦・州・準州政府や関連する政府機関(競争消費者委員会やATOを含む)、国家安全機関その他申請対象の投資行為を所管する機関と幅広く協議します。これらの機関から提供されたコメントやアドバイスは、申請対象となっている投資案件の影響、とりわけ国益および国家安全に対する影響を審査するうえで重要となります。
重要な点として、これらの機関のいずれかが疑問や懸念を示したり、条件を付けようとした場合、審査期間が30日を超える可能性が高くなります。例えば、競争消費者委員会が競争の観点から懸念を示した場合は、かかる懸念が解決されるまで決定は行われません。
外国投資についての決定
外国投資に対して異議を唱えない旨の財務大臣による通知には、許可される取引、当該取引に関連する外国人(今後設立予定の外国法人や信託の受託者である場合もあります)、および当該取引の実施期限(外国人が当該取引を実行に移す場合)が記載されます。実施期限は通常は12か月ですが、財務大臣が承認すれば、これより長くなることもあります。重大な契約変更(たとえば取得する対象事業体の持分比率の増加など)があった場合、再度承認が必要になる可能性があります。
外国投資についての条件
上述のように、外国投資の承認に条件が付される場合があります。この場合、これらの条件の遵守が法律上義務づけられることになります。投資についての条件は、財務大臣が国益または国家安全に反するものでないことを確認するために付されるものです。
ATOがオーストラリアの税収に影響が生じると判断する取引については、事案に応じて税務に関する条件が付されます。税務に関する条件は、標準的なものである場合が多いため、その内容が公表されています。もっとも、特別の税務リスクを生じる可能性のある投資案件の場合、申請者は、投資に関連する税務上の問題の解決のためにATOと真摯に協議する必要があり、納税額の見積もりを含め、所定の情報を提供しなければなりません。
投資の対象事業が、センシティブな個人情報を保持している場合、その情報の管理に関する条件が付される場合があります。
通常、条件には、コンプライアンスについて報告する義務も含まれ、さらにはコンプライアンスを証明する監査人を任命する義務が含まれる場合もあります。
農業用地でない更地に関する取引には条件が付されます。このような土地を取得する場合、承認から5年以内に提案した開発に着手し、建築完了までその土地を保有し続ける条件が付されることが一般的です。
最終審査権(ラスト・リゾート・パワー)
財務大臣は、FATAに基づき一度承認されて実行された投資についても、国家安全上の懸念が新しく発生した場合には、新たな条件を付したり、既存の条件を変更したり、さらには投資を実行して一度取得した資産を売却するよう命じるといった、広範かつ強大な権限を有しています。財務大臣は、一度与えた承認、条件付き承認または除外証明について、見直すことができます。
この権限(最終審査権)は、以下のいずれかの場合に行使できます。
- 投資の承認申請または除外証明の申請の際、虚偽または誤解を招くような情報が提供された場合
- 投資家の事業、構造、組織または活動に重大な変化が生じた場合
- 投資に関連する状況または市場に重大な変化が生じた場合
グループ内リストラクチャリング
FATAに基づく申請義務は、企業グループ内部の再編にも等しく適用されます。ただし、共通の親会社を持つ子会社間または親会社と子会社との間で行われる証券、資産または土地に関する権利の取得の場合は、申請手数料が減額されます。
記録の保管
外国投資についての通知や申請に関する記録は、所定の期間保管されなければなりません。この義務は、FATAに基づき財務大臣が行った命令・決定に関連する申請対象取引についての記録(取引実施から5年間)、除外証明において指定される行為(行為実施から5年間)、承認または除外証明に付された条件の遵守についての記録(条件が適用されなくなってから2年間)、そして一定の居住用地の権利の処分についての記録(処分から5年間)に適用されます。
申請手数料
FATAに基づく届出または申請を行う場合は、申請手数料を支払う必要があります。財務大臣は、申請手数料が支払われるまでは、審査を開始する必要がありません。財務大臣による審査期間も、申請手数料が満額支払われるまでは開始しません。
申請手数料は、2015年外資買収費用法(連邦法)に定められています。いくつかの異なる計算式や複数の例外や種類がありますが、大まかに言えば、事業買収にかかる申請手数料については、対価が5,000万ドル増えるごとに26,400ドルの手数料が加算され、手数料の上限は1,045,000ドルとされています。
オーストラリア資産の外国人所有登録
オーストラリア政府は、2024年末までに、オーストラリア資産の外国人所有登録簿を作成することを法律で定めました。登録が開始されると、外国人投資家は、土地、水資源、オーストラリアの企業や事業に対する広範な権利について、登録機関に通知する義務を負うことになります。権利を持たなくなった場合も、登録機関に通知する義務を負います。登録は、公開されませんが、政府内部において情報が共有されることになります。