金融サービス規制体制
オーストラリアの銀行制度は、オーストラリア健全性規制庁(APRA)によって財務健全性の観点から規制・監督されています。同時に、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)が、オーストラリアの会社、金融市場、金融サービス機関や、投資、退職者年金、保険、預金受入れ、与信の取扱いや助言をしている業者を規制する役割を果たしています。
オーストラリアは、金融商品についての助言、預貯金、または清算・決済などの金融サービスを提供する事業者に対して、統一的な免許制度を設けています。
この免許制度は、管理型投資スキームの運用や、株式、社債、管理型投資スキームにおける持分、外国為替、貯金商品や金融派生商品などの売買にも適用されます。
また、オーストラリアの金融サービス規制体制は、
- 特に小口顧客相手に金融商品を販売・勧誘する事業者を対象とした、トレーニング、運営能力、その他の行為準則を定めています。
- 金融商品・サービスに関して、統一的な販売・情報開示制度を実施しています。
ある企業がオーストラリアで金融サービス業を行う場合、当該企業は、除外規定に当てはまらない限り、オーストラリア金融サービス業免許(AFSL)を保有している必要があります。外国の金融サービス業者は、オーストラリアで金融サービス関連の営業活動を行うにあたり、除外規定に該当するかを慎重に検討する必要があります。
投資商品
オーストラリア市場で提供されている投資商品には、主に2つの種類のものがあります。すなわち、証券(法人の株式や社債を含みます)と管理型投資スキームにおける持分です。これらは、いずれも退職者年金などの年金商品とは区別されるものです。
オーストラリアに所在する者に対して商品に関連する金融サービスを提供する事業体は、金融サービス業免許を保有している必要があるか、適用除外規定を利用することができるか検討しなければなりません。ここでいう事業体には、商品に係る持分の発行者・運用者は当然として、商品のプロモーター、販売業者、管理者も含みます。
さらに、外国の金融サービス提供者(外国における集団投資スキームの発行者・運用者を含みます)については、外国会社としての登録を行う追加の義務を負担し、当該事業者が法人(body corporate)であり、オーストラリアにおいて事業を行うのであれば、オーストラリアにおける代理人も指名しなければなりません。
(a) 投資会社
法人(大まかにいうと、法人格をもつもの、つまり訴訟の当事者となり、自己名義で資産を保有することや契約当事者となることが可能で、永続性を有するものを意味します)として構成される投資ビークルの持分をオーストラリアに所在する者に対して売り出す場合、それが株式であれ社債であれ、規制の対象となる可能性が高いといえます。その場合、投資ビークルおよび販売業者のいずれについても、いかなる免許・登録義務が生じる可能性があるのか、検討する必要があります。
経験則上、管理型/集団投資スキームの持分を売り出す場合に比べ、投資会社の持分をオーストラリアに所在する者に売り出す場合の方が、免許制度の観点からは著しく容易であるといえます。
(b) 管理型/集団投資スキーム
集団投資ビークルは、一般に管理型投資スキーム(managed investment scheme)の特徴を有しています。管理型投資スキームは、様々な法的形式をとっており、そのうちの一部は単なる契約型のスキームで、ある一定の状況が起これば投資者が利益を受け取るという個人的な約束をプロモーターが投資者に対して行うものです。これに対し、最も一般的な投資スキームは、ユニット・トラストです。ユニット・トラストでは、従来型および代替型の各種の資産クラスを対象にした商品が用意されており、例えば、現物資産そのもの、資産証券、エクイティ(国内および国外)、現金、プライベート・エクイティ、ヘッジファンド、インフラストラクチャーなどを対象にしたものなどがあります。
管理型投資スキームのもとでは、複数の投資者が資金を提供し、その資金をプールするか共通の事業に投資することによって、各投資者が金銭的利益を得ることを目的とした仕組みです。株式や社債と比べて管理型投資スキームが決定的に違うところは、投資者自身にはスキームの日々の運用について関与する権限がなく、運用をプロの運用業者に任せることになっている点です。
管理型投資スキームの運用を行うために必要な金融サービス業免許を取得しようとする事業体は、財務的な条件を満たすとともに、総合的な複数の免許要件を満たしていることが求められます。投資者の能力、知識、そして経験について最低限の基準は、この要件に基づいて設定されます。この免許要件に加え、管理型投資スキームの持分が小口ベースで販売される場合は、原則として、当該管理型投資スキームそのものを登録することが必要になります。逆に、管理型投資スキームの持分がオーストラリアの大口投資家のみに販売される場合は、スキームの登録は必要ありません。
小口投資家と大口投資家ははっきりと区別されており、大口投資家と分類されない限りは小口投資家とみなされます。
一般に、大口投資家とは、機関投資家や規模の大きい投資を行う知識と経験が豊富とみなされる投資家などをいいます。
登録を必要とするスキームは、各種の厳しい規制が課せられ、会社法の規定を遵守している必要があります。例えば、当該規制上、管理型投資スキームは、責任ある法形式である公開会社によって運営されなければなりません。責任ある公開会社は、受託者と運用業者の役割を兼ねているのです。
多くの海外の資産運用業者が、オーストラリア国内でオーストラリアの法律に従ってファンド運用会社を設立し、国内の資産運用業者と同じ条件でアンドを運用しています。別の方法として、海外で設立された投資スキームを、オーストラリアにおいて大口投資家のみに対して、または大口および小口の投資家に対して、直接販売することも可能です。そのためには、資産運用業者は関連するオーストラリアの金融サービス業免許の要否と外国会社としての登録の要否について検討する必要があります。
オーストラリアの大口投資家のみを対象にする場合には、会社法規定の適用除外のいくつかが利用可能かもしれません。例えば、特定の国(英国、米国、シンガポール、香港など)で運用業者が規制を受けている場合には免許が不要となります。他方、小口投資家を対象とする場合は、大口投資家を対象とする場合よりも適用除外の範囲は大幅に限られており、海外の投資スキームや運用業者に対するオーストラリア法の規制の中には回避できないものもあります。
一般には、海外の資産運用業者は、オーストラリアの免許取得者との間で戦略的な提携関係を結ぶことにより、オーストラリア法による規制の負担を最低限に抑えつつ、オーストラリアの小口投資家を対象とした販売を行うことを可能としていることが多いようです。
退職者年金
オーストラリアの使用者は、原則として、四半期ごとに従業員の通常の勤務時間の就労に対する給与の一定割合を、退職者年金基金へ積み立てます。通常、従業員には、どの退職者年金基金にするか選択する権利があり、また自己の退職者年金基金の積立金を、退職者年金基金の間で移動させることもできます。従業員が退職者年金基金を選択しなかった場合、使用者は、その従業員に関しては「マイスーパー商品(MySuper Product)」(単純で低価格の既定退職年金商品)を提供することを認められている退職者年金基金のいずれかに積立てを行う必要があります。
現在の退職者年金に対する法定の最低積立料率は9.25%ですが、使用者・従業員ともそれ以上の積立てを任意に行うことができます。
こうした任意積立ては、従業員の雇用契約条件の一部として行うことも可能です。また、従業員は、自己の給与を減らして退職者年金へ追加積立てを行うこともできます(これは「サラリー・サクリファイス」と呼ばれます)。ただし、退職年金制度への積立額につき、軽減された税率が適用される金額には各会計年度ごとに上限が設けられています。当該上限額を超える積立てを防ぐため、上限を超えた部分については、超過納付税を支払わなければならないこととなっています。
使用者が最低限の積立義務を果たさない場合は、退職者年金保証金(SGC)と呼ばれる特別税が使用者に課せられます。基金への積立ては法定の義務ではありませんが、SGCがあるために、退職者年金基金への積立ての方が、使用者にとってはよりコストのかからない選択肢になっています。
規制対象の退職者年金基金は、1993年退職年金業(監督)法の下、オーストラリア健全性規制庁(APRA)から免許を受け、同庁に監督されています。ただし、自己運用退職者年金基金は、オーストラリア国税庁に監督されています。
退職者年金基金は、継続的に、自己資本比率、ガバナンス、報告義務に関する義務を課され、とりわけその事業運営および商品に関する情報開示については、法令や健全性規制により厳しく統制されています。
保険とリスク管理
オーストラリアの保険市場は厳しく規制されています。損害保険会社や生命保険会社は、オーストラリア国内で保険業を営むために、各法律に基づいて認可を受ける必要があります。ただし、オーストラリア人が外国保険会社から直接保険を購入することは妨げられません。
保険会社は、自己資本比率、支払余力、報告義務に関する継続的な義務の対象であり、APRAの監督を受けるとともに、事業運営の方法も、市場活動や保険契約業務を規制する法律によって厳しく統制されています。
保険会社および保険代理店は、小口顧客または大口顧客に対して金融サービスを提供する場合は、オーストラリア金融サービス業免許(AFSL)の取得が義務付けられます。再保険会社も、オーストラリア国内で営業するためには、認可を受けることが義務付けられています。再保険会社には、保険会社と同じく、自己資本比率、支払余力および報告に関する継続的な義務が課されています。
オーストラリアのリスク管理は高度な発展を遂げており、世界トップレベルのスキルが利用可能です。保険によるものを含むリスク管理は、多くのオーストラリア産業において法律上の必要条件になっています。保険業界自体も、その例外ではありません。代替的リスク移転の手法も利用されており、大手のサービス提供業者は、適切なリスク管理技術に関する専門的なスキルを提供しています。
マネーロンダリング防止およびテロ資金対策
現金であるか国際送金指示によるかにかかわらず、オーストラリアから持ち出される通貨の金額およびオーストラリアに持ち込まれる通貨の金額について、特に制限はありません。ただし、所定の取引には報告義務が課せられます。2006年マネーロンダリング防止およびテロ資金対策法(連邦法)(AML/CTF法)は、一定の「指定役務」を提供する「報告事業者」に該当する金融サービスセクターの事業者に対して義務を課しています。連邦政府は、同法の適用を「専門的役務」提供者(弁護士、不動産取引専門弁護士、不動産業者、会計士、信託・会社の役務提供業者など)にも拡大するべきか検討しています。
指定役務には、銀行口座の提供、融資の提供、売掛債権の買取、ファイナンス・リースの提供、金融派生商品の取引、合同運用ファンドのユニットの発行、割賦購入あっせん、為替手形の振出、約束手形や信用状の発行、その他多くの金融取引など、広範な活動が含まれます。2017年の終わりのAML/CTF法改正で、電子通貨と現金の交換を行う事業も同法の対象とされました。本改正は、2018年4月に発効しています。
指定役務を提供する報告事業者に義務付けられている行為には、以下に掲げるものが含まれます。
- 指定役務を提供する前に顧客の身元を確認することや顧客の受益権者の情報を確認することなどを含む、マネーロンダリング防止およびテロ資金対策(AML/CTF)の遵守プログラムを実行すること
- 特定の種類の取引や疑わしい事項に関して、オーストラリア取引報告・分析センター(AUSTRAC)に報告すること
- 継続的に顧客に関するデュー・ディリジェンスを行うこと
- 正確な記録を保存すること(記録保存義務の開始日は2006年12月13日)
税法の執行
1988年金融取引報告法(連邦法)(FTR法)は、税法その他の連邦・州・準州法の管理や執行を支援することを目的としています。2006年にAML/CTF法が制定された際、FTR法の一部は廃止されたり、適用される場面がなくなったりしました。もっとも、FTR法は依然として所定の取引について報告義務を課すとともに、「キャッシュ・ディーラー」が提供する所定のサービスに関する義務を課しています。
キャッシュ・ディーラーには、金融機関、金融会社、保険会社、保険仲介業者、証券および金融派生商品取引業者、ユニット・トラストの受託者やマネージャー、賭博業者などがあります。ただし、FTR法に基づく報告義務は、AML/CTF法の適用がない取引についてのみ課されることになっています。
クレジット規制
消費者向けのクレジットとリースを規制するオーストラリアのクレジット制度は、2009年全国消費者クレジット保護法(連邦法)(NCCP)とナショナルクレジットコード(NCCPの別表1)によって導入された制度です。同制度は消費者向けクレジットなどのクレジット・サービスの提供業者に、統一的なライセンス制度を提供するものです。また、同制度上、クレジット提供業者に外部の紛争解決スキームに加入しなければなりません。さらに、同制度は、クレジット提供業者に責任ある貸付け行為要件を課し、同制度の規制当局であるASICに制裁を課す権限と執行権限を付与しています。
消費者向けのクレジットとリースの規制制度は、広告、契約前の行為、契約成立、融資管理、クレジット契約およびリースの終了・強制執行を含め、あらゆるライフサイクルを対象としています。ただし、同制度は、ナショナルクレジットコードの対象となるクレジットに関連するクレジット活動のみに適用されます。特に、企業と小規模ビジネス向けの融資にはNCCPが適用されない点は重要です。