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導入

オーストラリアの契約法は、民法典ではなく、イギリス発祥のコモン・ローを立法により修正したものに基づいています。オーストラリアの契約法を支える基本原理は、契約自由の原則であり、同原則により当事者は法制の範囲内で自由に契約の内容を決めることができます。

当事者は契約の条件、様式、内容について原則として自由に決めることができますが、以下の点には留意が必要です。

  • 土地に関する権利の取引などの所定の取引を除き、契約の存在の立証に書証は必要ありません。
  • 契約は書面による場合のみならず、口頭で、あるいは当事者の行為によって成立することもあれば、状況に照らして黙示に成立する場合、法律の定めにしたがって成立する場合、上記の組合せによって成立する場合もあります。
  • 一般的に、全当事者が署名した交渉の結果を証する書面を取得することで契約の運用と執行がしやすくなります。 

オーストラリアの裁判所は、契約当事者の意思を書証から認定することにかなりの重点をおいています。

契約当事者

オーストラリアの契約法における重要な概念は、契約とは当事者による相互合意に向けた意思の合致であるというものです。これが意味するところは、契約の当事者でない者は契約によって拘束されることはなく、契約に基づく権利を取得することもないということです。これは契約の相対性の原則(privityrule)として知られています。ただし、この原則にはいくつかの数少ない例外があります。

以上の理由から、契約においては関連する全ての当事者について、個人であるか、会社であるか、法令に基づき設立された事業体であるか含め、正確に特定 することが重要です。

制定法の直接的な介入

2010年競争・消費者法(連邦法)など、制定法には、契約の全部または一部の定めに優先したり、契約の効力を制限したり、所定の条項を強制的に挿入するものがあります。

契約自由の原則に影響を与える制定法は、連邦レベル、各州・準州および地方自治体レベルで運用されています。連邦法はオーストラリア全土に一律に適用されますが、下位の制定法の内容は一様ではありません。

取引制限の禁止

契約により、直接または間接的に、相手方に対して第三者と雇用契約等の契約(または証書)を締結することを制限することは、排他的取引を構成するものとして2010年競争・消費者法(連邦法)の独占禁止に関する条項によって規制される場合があります。また、このような制限は、コモン・ロー上の取引制限として無効となる場合もあります。具体的には、裁判所は、契約によって制限される行為、期間、場所が必要以上に広範に及ぶ場合は、そのような規定を無効かつ強制失効不能と判断する場合があります。この点につき、ニューサウスウェールズ州においては、1976年取引制限法(ニューサウスウエールズ州法)の下、そのような制限はニューサウスウェールズ州最高裁判所が合理的と認める範囲のみにおいて有効となります。

責任の制限や免除

契約の当事者は、2010年競争・消費者法(連邦法)や州・準州における同種の物品販売・公正取引法に反しない限り、契約違反や一定の状況から生じる契約上の責任を、自由に制限または免除することができます。ただし、責任の免除または制限条項に依拠しようとする契約当事者は、当該条項の効力を主張する当事者の意図どおりに裁判所に解釈してもらえるようにしておく必要があります。

制定法による間接的な影響

制定法の中には契約自由の原則に対して間接的な影響を与えるものもあります。一つの例は、「動産(personal property)」に対して担保権が設定される場合です。動産には、土地または連邦政府や州政府から付与される一定の権利(例えば採掘権)以外の、すべての財産が含まれます。動産に担保権が設定される場合、2009年動産担保法(PPSA)(連邦法)が適用されます。担保権者は、動産担保権を第三者に対抗するためには、動産担保レジスター(Personal Property Securities Register)に所定の期間内に登録を行わなければなりません。

動産担保法は、伝統的な形式の担保権のみならず、 売買契約における所有権留保、買取選択権付賃貸 借、または一定のリース契約により生じる担保権を 含む幅広い担保権をカバーします。

担保権の登録は、動産担保法と、2001年会社法(連邦法)その他の関連規定により規制されています。その他の制定法には、相手方に所定の通知や警告を与えることや所定の条項を加えることを求めるものもあります。例として、国家・州・準州レベルのプライバシー法制が挙げられます。

コモン・ローによる制限

制定法に加え、コモン・ローにも契約自由の原則に制限を課すものがあります。契約法の一般原則に基づき、特定の契約違反があった場合において、一方の当事者が他方の当事者に対して支払うべき損害賠償額の予定や金額の算定方法を当事者間で合意することは可能です。このような契約上の取り決めは、具体的な損害額の計算が難しい場合や、当事者が紛争解決や訴訟に要する費用の負担を望まない場合には、有用な方法といえます。

しかし、損害賠償額の予定に関する合意は、実際に蒙るであろう損害を予測しようとする真摯な試みでなくてはなりません。したがって、金額が実際に予測される損害に比して高額すぎる場合、契約遵守を強要するための脅しとして規定される場合、曖昧な状況で損害賠償義務が生じる場合、または一方当事者の恣意により損害賠償義務が発生するような場合には、裁判所は、それらの条項を単なる罰則規定とみなし、それらの条項を強制執行不能と判断する場合があります。

紛争の解決

契約当事者間の紛争は裁判所が解決しますが、オーストラリアには裁判所の介入なく紛争を解決するための実務が数多くあります。オーストラリアは、外国仲裁判断の承認と執行に関する条約の加盟国です。したがって、仲裁人(通常、あらゆるコモン・ロー上、衡平法上、および制定法上の救済方法を命じることができます)の仲裁判断は、連邦裁判所またはオーストラリアのいずれの州、準州の裁判所においても承認され、執行されます。

物品売買に関する国際条約

オーストラリアはウィーン売買条約(国際物品売買契約に関する国際連合条約)の加盟国です。この条約は、国際的な物品売買契約の成立と履行に適用される統一的なルールを規定し、当事者の権利義務の枠組みについて定めています。 国際物品売買契約の当事者は、契約の準拠法として、当事者のいずれか一方の国の法律を選択することもできます。しかし、そのような合意がなされない限り、ウィーン売買条約が適用されることになります。

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