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導入

2007年12月に京都議定書に批准して以来、オーストラリアの連邦レベルでの気候変動政策は、度重なる政権と首相の変更と相まって、10年以上にわたり不確実性にさらされてきました。京都議定書の第一約束期間では、オーストラリアは1990年比で8パーセントの排出量を増やすことが可能でしたが、その後、ドーハ改正を批准し、2020年までに、排出量を2000年比で5パーセント削減することを約束しました。2016年4月、オーストラリアはパリ協定を批准し、パリ協定におけるオーストラリアの自主決定貢献(Nationally Determined Contribution)に基づき、2030年までに自国の排出量を2005年比で26~28%削減することを約束しました。オーストラリアは、自主決定貢献のアップデートにはまだ約束しておらず、国際交渉の一環として、2030年の排出量削減の約束を見据えて、京都議定書に基づく「キャリーオーバークレジット」(すなわち、目標以上の達成)を使う権利を留保しています。

ほとんどの州及び準州が、ネット・ゼロ・エミッション2050などの様々な排出削減目標を採用しているにもかかわらず、連邦議会では、現在、オーストラリアの2030年の目標についても、国際的な約束を履行するための国内の政策についても、二大政党が協力している状況にありません。このような不確実な規制の見通しに鑑み、オーストラリアで事業を行う企業は、気候変動に関する政策や規制を定期的に確認することが重要です。

政策の進展や変更が予想されることに鑑み、気候変動に関する政策や規制を定期的に確認することが重要です

炭素報告

2008年に、温室効果ガス(GHG)の排出およびエネルギーの消費と生産の報告を義務付ける、国家的枠組み(NGER)の運用が開始されました。支配会社が、自社または子会社を通じて、所定の排出量・エネルギーの生産・消費量の基準値を超える施設の運営をしている場合、その詳細を年次でクリーン・エネルギー・レギュレーター(CER)に報告する義務があります。この義務は、企業グループとしてグループ用基準値を超えている場合にも適用されます。

炭素価格制度

2011年、NGERにより収集された報告データに基づき、当時の労働党政権の中央政府は、炭素価格制度(CPM)を導入すると発表しました。この制度は、2012年7月に開始されました。しかし、2013年に自由・国民党連合政権の中央政府が選出されると、2014年7月をもってCPMは廃止されました。

CPMに従い創設された排出量取引制度では、各会計年度で二酸化炭素基準値25キロトンを超えるGHGを排出する施設を運営する大規模排出者に、責任が課されました。施設を運営する事業体には、NGERの下で、排出量の報告を行うことが義務付けられ、報告された排出量に相当する排出枠を放棄するか、排出枠不足課徴金を支払う必要がありました。

CPMの適用範囲は幅広く、定置エネルギー、産業プロセス、非レガシー廃棄物からの排出物、漏洩排出物(閉鎖された炭鉱からのものを除く)における、GHGの排出と吸収を対象としていました。二大政党間の協力により、農業部門の排出量は、カーボン・ファーミング・イニシアチブ(CFI)の下で別個に対処されることになりました。それ以降、CFIは大幅に拡張され続けています(下記参照)。

CPMの導入当初は、固定価格が採用されており、2015年にキャップ・アンド・トレード制に変更されるまで毎年増額される予定でした。しかし、上記のとおり、CPMはフレキシブル価格期間の開始前に撤廃されています。

現在野党である労働党は、次回の連邦総選挙で選出された場合には、排出量取引の仕組みを導入する予定であるとしています。

直接行動プラン

2013年に、保守連合はCPMを撤廃し、代わりに直接行動プラン(DAP)を導入するという政策を訴え、選挙に勝利して政権交代が実現することになりました。DAPはCPM撤廃後2014年に開始しました。

DAPは、排出削減ファンド(ERF)(気候解決ファンド(CSF)によって補完)、セーフガード・メカニズム、再生可能エネルギー目標(RET)という、3つの主な要素から構成されています。

排出削減ファンド

ERFは、DAPの中核的要素であり、既存のCFIを拡張する形で機能します。リバース・オークションを通じて、政府は、承認されたCFIプロセスに基づいて達成された削減排出量について、登録を受けたプロジェクト・プロポーネントからオーストラリア炭素クレジット(ACCU)を買い取ることを請け負います。

気候解決ファンドは、最初に25億5,000万豪ドルを割り当て、2019年2月に20億豪ドルを追加したことから、2013年以来の合計で45億5,000万豪ドルの規模となりました。

ERFに基づき、CFIは工業部門だけでなく農業部門にも拡大して適用されており、炭鉱、運輸、商用・工業エネルギー効率、埋め立てガスやそれに代わる方法の廃棄物処理を対象として、新規のCFIプロセスが承認されました。政府は、現在、二酸化炭素貯留や水素プロジェクト等の方法にも拡大することを検討しています。

セーフガード・メカニズム

セーフガード・メカニズムは、NGERに関する法律の改正を受けて2016年7月1日より運用が開始されました。この制度は、対象事業体に排出量を現状維持シナリオ(business as usual scenarios)以下に抑えることを義務付けて、ERFを補完しています。

二酸化炭素基準値で10万トンを超えるスコープ1の排出量を直接に排出する施設は、セーフガード・メカニズムの対象となります。これは、オーストラリア全体の排出量の4分の1を排出する約200の施設をカバーすることになります。CERは、セーフガード規則に基づき、これらの施設についてベースラインを設定する決定を下します。対象排出者は、自己に設定されたベースラインを遵守し排出量をNGER を通じてCERに報告する責任を負います。

設定されたベースラインの遵守にあたっては、ACCUの放棄、ベースライン変更申請、超過量の複数年分散など、様々なオプションが用意されています。CERは、広範な執行権限を有しており、これには強制的約束・差止め、侵害通知の発行、最高180万豪ドルの民事上の制裁金が含まれます。

連邦政府は、大量排出者向けに、セーフガード・メカニズムに基づき、ACCUマーケットの外部で運営する任意の与信スキームの設立を検討しています。このスキームは、設定されたベースラインを下回るよう、排出量を削減する技術の設置のために与信を行うものです。

再生可能エネルギー目標

CPMとDAPとは対照的に、オーストラリアの2020年までの再生可能エネルギーによる電力供給量の目標値を定めるスキームである、再生可能エネルギー目標(RET)のスキームについては、二大政党は協力関係にあります。このスキームは大幅な変更を経ており、2001年の導入開始時点の目標値は2%でしたが、2009年にはそれが20%(41,000GWh)まで引き上げられました。

このスキームは、再生可能エネルギー法に基づき、小規模再生可能エネルギースキーム(SRES)と大規模RET(LRET)の二つに分かれています。SRESは、家庭や小規模企業に対して利益を与えるのに対し、LRETは、再生可能エネルギー発電施設の設置や拡大のための金銭的なインセンティブを与えるものです。LRETは、オーストラリアの2020年排出量目標を達成するうえで重要な、政府のDAPの主要要素でした。もっとも、2014年のRETの見直しを受けて、2015年に2020年RET目標は41,000GWhpaから33,000GWhpaにまで引き下げられました。LRETは2019年に修正され、連邦政府は2030年まで目標値を引き上げる予定はないことを示しました。

州や準州でも、再生可能エネルギーの目標を定め、サポートスキームを実施しています。中でも注目すべきは、オーストラリア首都特別地域が、大規模太陽光設備や投資についてリバースオークションを利用することを通じて、2020年までに再生可能エネルギーを100%にすることを目標とする政策を掲げたことです。また、南オーストラリア州では、10年以内に需要の100%を再生可能エネルギーで賄うことを見込んでおり、タスマニア州では、2040年までに州内のエネルギー需要の200%を再生可能エネルギーで作出する目標を設定しています。

連邦レベルでは、2018年に、政府は、クリーンエネルギー技術に132億豪ドル投資し、クリーン水素や将来的に再生可能エネルギーを中心とした電力網を整備するための技術への投資のための長期的なプランを進めているところです。

その他の気候変動対策の取り組み

気候変動への連邦政府の対応が安定しないため、一部の州と準州は、独自の排出量削減・エネルギー効率化プログラムを開始しました。これらのプログラムの中には、CPMが開始された結果として撤回されたものや廃止されたものがありますが、一部の州ではCPMの撤回に伴って、再度復活しています。例えば、オーストラリア首都特別地域は、GHG排出量について、独自の法律を備えており、2045年までのネット・ゼロ・エミッションを主要目標に掲げています。また、タスマニア州や南オーストラリア州でも、排出量を50~60%削減することを目標とする独自の法律が制定されました。ニューサウスウェールズ、西オーストラリア、クイーンズランドの各州及び北部準州も、2050年までのネット・ゼロ・エミッションの達成を目指して、間もなく独自の法律が制定される見込みです。

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